第2話少女【竜】との出会い
「こんな所で何やってるんだい? ——お嬢ちゃん?」
男の目に入っているのはみすぼらしい格好をさせられ、足に鎖をつけられ傷つけられた1人の幼女だ。
大きな檻にポツンと一人座っている。
「全く……。捕虜か? 奴隷か? こんな幼い女の子を檻の中に閉じ込めて置くなんて……」
男が振りかぶり檻の鍵を壊そうとすると、後から要塞の地下へと到着した若い部下から止められる。
「隊長、何やってるんですか……。檻の鍵なんて壊して……」
「何ってこんな幼い女の子をこんな所に放っておけるわけないだろう?」
「隊長何言ってるんですか? ——隊長が血迷ったぞ! 飲み屋のナナちゃんに一晩過ごして部屋に臭いがこもる歳は本気になれないってフラれたからってやけになって幻想が見えてる! 皆止めろー!」
若い騎士たちが必死になって止めようとするが、赤子の手をひねるように払われてしまう。
——その話は余計な話である。加齢臭などしないというのに……。
男は何の躊躇いもなく檻の中に入るとこちらを鋭い目で見て威嚇する幼女に語りかける。
「全く、何を言っているんだか……大丈夫だよ。何も怖い事はしない。ほら、君の足についている枷を取るだけだから……」
男はそういうと足についた鎖を剣で切る。
後ろにいた若い騎士たちが皆その檻から離れ地上へ我先にと走り出す。
「あいつら一体どうしたっていうんだ……」
後ろを振り返り、走り去って埃がたった石畳の通路を見て男は唖然とするが、すぐに幼女に向き直り話しかける。
「さあ、君は自由だ。と言ってもそんな体じゃまともな食事を与えられていなかったのだろう? 今、手元にあるのは携帯食料しかないが何も食わないよりはマシだろう」
痩せ細った幼女に男は干した果物を差し出した。
だが幼女は警戒して後退りをする。
男はため息をつくと笑顔で少し干した果物をかじった。
「ほら、毒なんて入っていない。少しでもいいから食べて。ね?」
幼女に再び果物を差し出せば、恐る恐る幼女は口に運び、それを食べる。
「よし、いい子だ。外に行ったらもっと良いものを食べさせて上げよう」
男は幼女の頭を撫でると檻の外へと導いた。幼女は首を傾げるが、ついてこようとしない。
男は不思議に思いながらも幼女の手を取り、外の世界へと導いたのである。
言葉も十分に理解できない子供をこんなところに閉じ込める敵に怒りを覚えつつ、日の差す方へと血塗られた石畳を進むのであった。
*
地上に出てみれば剣や大砲がこちらに向けられている。
騎士達の表情を見ても真剣そのもので顔が青ざめているものもいる。
男と同年代の騎士は剣を構えながら言う。
「フロレンツ何している! まだ幼体だ。殺すならいますだぞ? 天災となる前にそれを駆逐せねば!」
「天災? 何を言っている? こんなに幼い者に武器を向けるな。怯えているだろう?」
フロレンツと呼ばれた男の後ろにいる幼女はビクビクと怯え体を小さくしている。
フロレンツは幼女の頭を撫でてやり、安心させる。
「大丈夫、僕の皆仲間さ。君を傷つける事はないよ。全くお前たちは子供一人に少し警戒しすぎだ。それよりもこの子はお腹が空いているようだ。ご飯の用意をしよう。ずっと檻の中にいたんだろう? 温かいものを用意しよう」
フロレンツは幼女の肩に触れ、布切れの上に座らせると自分はスープ作りを始める。幼女は大人しく言う事を聞いているようだ。
大砲や戦力を集中させていた面々は唖然となり、剣を置いた。
「隊長がテイムした……」
「あれ飼う気なのか? 餌やるって言ってたよな……」
そう、若い騎士たちにはどう見ても小さめな竜がそこにいるようにしか見えない。
「よし、食べれるかな? ほら」
フロレンツはスープを一口口に含み毒見すると、スプーンでスープをすくって幼女の口元へと持っていく。
幼女はボーッとフロレンツの顔を見るだけで口を開けようとしない。
「ほら、口を開けてごらん。アーン」
フロレンツは口を大きく開けて食べる真似をして見せると幼女も口を開けた。スープを一口食べれば幼女は目を輝かせ、スープの皿を渡せば、皿からスープを啜る。
「よし、良い食べっぷりだ」
「ありゃ、完璧テイムしてるな……」
「ああ、あれどこまで連れていく気かな……」
幼女の気が済むまでスープを食べさせると次の戦場へと向かうのであった。
*
「これから僕は戦場へと向かう。一緒に来るのは危険だ。この村で君の面倒をみてくれる人を探そう」
「隊長申し上げにくいのですが、その幼体を面倒見てくれる者はいないと思います」
「できればこの場で駆逐していただきたいですが、それが難しいのであれば野に放てばよろしいのでは?」
「何を言っているこんな幼い子供を野に放ったら、一瞬で魔物にやられるか餓死してしまうだろ?」
見えてくる村に預けようと思えば部下たちからは心ない事を言われてフロレンツは憤慨する。部下たちはため息をつくと失恋と戦場で心が壊れた上司を遠い目で見つめるのであった。
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