第64話「敵に背は見せられぬ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「……っ……」


 相手の勢いに押されて、刀兵衛はじりじりと後退していく。

 不可視の刃によって、肉体のあちこちに傷が刻まれていった。


 それでも、直感によって致命傷になることは防いでいるが、浅い傷は次々と増えていき、血飛沫が舞う。

 これほどまでに傷を負ったのは、初めてのことであった。


「…………」


 それでも刀兵衛は聖剣を手に、己の体得したすべての剣技を出して目の前の化物と闘い続ける。


 しかし、人間を超越した技を繰り出して斬撃を叩きこむも――人外を遥かに超えた相手の体は黄金のように硬い。ほとんど、傷をつけられぬ。


 ここまで挽回の光明の見えぬ戦いは、もちろん、初めてのことであった。

 だが、斃(たお)れるわけにはいかぬ――。


 自分の後方には、大事な人たちが、大事な場所がある。

 だから、敵に背は見せられぬ――。


 闘うのだ。

 闘って、守るのだ。


 強くなるためではなく、守るためにこそ――闘うのだ。

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