第62話「咆哮」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「ぐぶあぁあああああああああ!」


 異変は突然だった。


 もう完全に押しており、刀兵衛の聖剣がドゥダーグの首と胴を離れさせることは時間の問題であったはずだが――。


 ドゥダーグが獣のような咆哮を上げるとともに、その肉体がドス黒い輝きを放ちながら激変していった。


「……っ!」


 危機を察知した刀兵衛は、瞬時に飛び退き距離をとる。


 ――ビシィイイ! ビシイイイイ!


 禍々しい漆黒のオーラは、まるで蛇のようにのたうち回り、あたかも鎌鼬の如く無数の刃を煌めかせて地面を斬り刻んでいた。


 回避が遅れていたら、刀兵衛の体は滅茶苦茶に斬り刻まれていただろう。

 その一瞬のうちに、ドゥダーグは自身の肉体を変容させていた。


 硬質の鱗に覆われた姿と鋭い目つきは爬虫類を思わせる。

 元から大きかった体は三倍ほどになっていた。

 左右の指には剣のような爪が生えており、暗黒色に輝く。


 着ていた鎧も兜も粉々に砕け散っていた。

 持てなくなった大剣は、足下に転がっている。


 憎悪と憤怒と魔力が暴走した結果なのか――ドゥダーグは、完全にバケモノと化していた。


「…………」


 それでも刀兵衛は、心を乱すことはない。


 たとえ相手が妖怪だろうが化物だろうが、やることはなんら変わらない。

 極限まで研ぎ澄ました剣技をもって相手に立ち向かい、斃(たお)すのみ。


 そして、今度こそ自分の大切な人たちを、大事な場所を――守るのだ。


「グギュゴォオオオオオオオオオ!」


 目の前のドゥダーグであったバケモノは、この世のものとも思えぬ咆哮を上げながら刀兵衛に襲いかかった。

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