第61話「バケモノ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


(こいつ、バケモノかぁっ!?)


 激しく大剣をぶつけあいげながら、ドゥダーグは内心、驚愕していた。


 ドゥダーグの強さは若い頃に鍛え抜いた剣技だけでなく、魔法で身体能力をこれ以上ないほどに高めていることにもあった。


 だが、目の前の異世界人に魔法を使っている気配はない。

 純粋な身体能力だけで、こちらと渡りあっているのだ。


 どれだけの鍛錬を積めば、それほどの高みに至ることができるのか。

 想像するだけでも空恐ろしいほどであった。


 そう思った隙を逃さないとばかりに聖剣が襲ってくる。


「ぐぬぅう!」


 それを辛くも大剣で受けとめ、跳ね返し、再び剣戟の応酬に戻る。

 一瞬たりとも気を抜けない戦いに、心身が消耗していく。


 対する異世界人はまったく疲れを見せぬどころか不気味なほどに落ち着き払い、不遜にもこちらを追いつめてくる。


 一歩。

 また一歩と。


 ドゥダーグは後退を余儀なくされていった。

 こんな屈辱、絶えてないことであった。


 若い頃は王国随一の武芸者として鳴らした。

 そう。あの忌々しい英雄が異世界からやってくるまでは――。


 ――ギリッ!


 甦る。

 あの過去に封じ込めたはずの暗い記憶が。


 甦る。

 自分を暗黒面に堕としたほどに圧倒的だった、あの異世界人の強さが。


 ――ギリリッ!


 ドゥダーグは歯を食い縛り、この世のものとは思われぬ憤怒と憎悪の形相になった。


 もう絶対に、あの頃の敗れ去った自分には戻らない。


 自分はすべてを手に入れたのだ。

 絶対に、この地位を、この富を、この権力を――失いたくない。


 そのためには、本当のバケモノになることも厭(いと)わない――。


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