第60話「剣心一致~守るためにこそ闘う~」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
刀兵衛は、真っ向から聖剣を振り下ろして、ドゥダーグの魔法斬撃を相殺した。
ダンジョンで手に入れた聖剣とはいえ――あれほどの魔法を撃ち消すことができるかどうかは、賭けであった。
元いた世界の刀兵衛なら迷わず回避して、敵を討つことに全力を尽くしただろう。
だが、今の刀兵衛は――。
「……拙者は……守るために闘うと、決めたゆえ……」
膨大な熱量を両断した聖剣は赤く輝きながら青白い火花を散らせ、灰色の煙を立ち昇らせる。
刀兵衛は、そのままギロリとドゥダーグを睨みつけた。
「小癪(こしゃく)なあああああああああああ!」
ドゥダーグは目を血走らせて絶叫しながら、狂ったように大剣を振り回し始めた。
だが、大振りではない。
ひとつひとつの斬撃が人体の急所を狙い、しかも避けにくい軌道で襲ってくる。
その太刀筋から、若い頃はよほど鍛錬したものと思える。
ただ粗暴で凶悪なだけではない。
武芸者として練磨したからこそ出せる剣技であった。
相手が一筋縄でいかぬことを改めて感じながら、刀兵衛は回避、迎撃、反撃、逆に先手をとって攻撃――と聖剣を手に立ち向かう。
元いた世界の自分なら、強き者と出会えたことに、わずかながら高揚していたことだろう。
だが、今の刀兵衛は、どこまでも研ぎ澄まされていた。
冷え冷えとして、どこまでも澄み切った明鏡止水の境地。
相手が怒りと憎しみを増幅して強さを増すほどに――逆に刀兵衛はどこまでも冷静に、静かに、無我を深めていく。
剣心一致。
体のみならず心も剣と一体となった刀兵衛は、無感情に、無造作に、無慈悲に、聖なる剣を振るう。振るい続ける――。
「ぬぐぅううう!」
しかし、敵もさる者。
憤怒の形相で大剣を振り上げ、振り下ろし、薙ぎ払う。
もはや剣技というより力技の領域であったが、理屈を超えた強さだった。
だが、相手が強くなればなるほど、刀兵衛の剣技はより冴え渡る。
力と技の対決は、見事なまでに伯仲(はくちゅう)していた。
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