第58話「声援」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
圧倒的な熱量の魔法攻撃により城壁もろとも市街の一部を消失させられたときは肝が冷えたが、そこはリアリがあらかじめ指定していたた避難指示区域だったので、人的被害は抑えることはできた。
「……む、むう……なんというバケモノなのじゃ……」
園は刀兵衛と対峙するドゥダーグを見て、苦々しげに呟く。
自分もそれなりの武芸者であると自負しているが、遠く離れたこの場所にいるだけでも恐怖に足が竦(すく)む。
「あれだけの魔法となると、わたくしに防げるかわかりませんが……でも、なんとしても民を守られねばっ!」
「ね、姉さまっ、もうこれ以上魔法を使うと、身体に負担がかかりすぎますっ!」
「でも、わたくしにできることはそれしかないのですからっ……!」
リリアは妹の制止を振り切って、両手を前に突き出してバリアを展開し始めた。
だが、魔法陣も杖もない状態なので、もはや薄皮一枚程度の魔法障壁しか張ることができないようだった。
「姫様っ、休んでくだせえ!」
「そうです! もうこうなったら俺ら、刀兵衛様に命を預けるだけでさぁ!」
「きっと刀兵衛様が、なんとかしてくれるわ!」
守備隊の傷ついた領民や救護役の女たちはリリア姫を労(いた)わりつつ、祈るように刀兵衛を見た。
そして、誰からともなく口を開いて声援を送り始める。
「刀兵衛様ー! きっと勝ってくだせえ!」
「がんばってください、刀兵衛様ー!」
「我らには刀兵衛様がいるんだ! 絶対に負けるもんかー!」
その声が次々と連鎖して、ルリアル城から刀兵衛への声援が湧き上がっていく。
その声援を聞いているうちに、園の心も落ち着いてきた。
今、できることは刀兵衛に声援を送ること。
それだけだ。だが、それでいい。それしかない。
「そうじゃ! 刀兵衛が負けるわけがない! 刀兵衛は絶対に勝って、わらわたちを守ってくれるのじゃ! 頑張れ、刀兵衛! 頼んだのじゃあーーー!」
園も声を張り上げて、叫んだ。
続いて、リリアとリアリも刀兵衛に向かって、それぞれ声援を送る。
「刀兵衛さま、がんばってください! 刀兵衛さまなら絶対にこの世界に安寧を齎(もたら)してくれると信じています! わたく刀兵衛さまのことを信じてます!」
「刀兵衛さまはチートなんですから、絶対に負けるわけありませんっ! そんな奴、やっつけちゃってくださーい!」
ルリアル城のみんなは思い思いに刀兵衛を応援していく。
それは緊迫に支配されていた空気を一変させるような、不思議で温かい大声援になっていった――。
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