第46話「グルスの決断」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


「なんだ、あの女の強さはっ!?」


 城壁の上で鬼神の如き槍働きをする鉢巻き女を見て、グルスは驚愕する。


 この攻城軍の先鋒は、先日の騎馬隊の敗残兵は別として、腕に覚えのある者を選りすぐっている。身体能力はもちろん、武芸者としての実力もかなりの者ばかりだ。


 多少の犠牲は考えていたが、城壁によじ登った者が一太刀も浴びせることもできずにことごとく返り討ちにあうとは思わなかった。


 中には挟み撃ちの形勢になることもあったが、それでも鉢巻き女はなんなくガルグの勇将たちを突き伏せている。


「ふん、このまま力攻めするだけじゃ、犠牲が増える一方じゃないかい?」


 レグナが鼻で笑いながら、グルスの指揮ぶりをまたしても嘲笑う。


(……くそ、忌々しい)


 心の中で悪態を吐くが、確かに自分にも落度はあった。


 こんなことなら弓矢部隊と投石部隊による遠距離攻撃で敵が疲弊するのを待ってから、じっくり攻めるべきだった。


 だが、今回の戦いではすでにドゥダーグの気がかなり立っていることから早く終わらせたいという気持ちがあったのだ。ドゥダーグは滞陣中に気に食わぬことがあると平気で将兵を斬殺することもある。


 あとは、夜襲に備え続けるという神経戦を継続したくないという思いもあった。


 夜襲の効果は、実際に襲撃がなくとも神経を疲れさせるという効果もある。

 その疲労の蓄積が、判断を少しずつ鈍らせていくことにもなる。


(このままでは、わたしの首も危うい)


 もともとドゥダーグは男には厳しい。

 このまま戦果を挙げられずに一日を終えたら、命も危ないかもしれない。


(こうなったら、背に腹を代えられぬ……いや、首には代えられぬ……)


 グルスは断腸の思いで、決断する。


「……すまん、レグナ。魔法部隊の力を貸してくれ。攻撃魔法によって城門を破壊してくれ。そうすれば、あとはわたし自ら兵を率いて討ち入り、城を落として見せる」


「……ふうん、いつも安全地帯から指揮しているだけだと思ったけど、あんた自ら最前線に出るって言うのかい?」


「ああ。わたしにも武人としての意地がある。それにこのまま負けたまま本陣に帰ったら、ドゥダーグさまはわたしをお許しにならないだろう」


 どこか吹っ切れたような表情のグルスに、レグナはそれ以上は軽口を叩かなかった。


「……そうさね、確かにこのままじゃドゥダーグさまはお許しにならないだろう。あたしだって、ただの折檻(せっかん)じゃすまないかもしれない。……なら、やってやるか。まだ、肝心の剣豪とやらが現れていないわけだし、こんなところでいつまでもまごついていられないからね!」


「ああ、頼む!」


 強敵を前にして、ガルグ軍は体勢を立て直すきっかけを得た。


 このまま無為に同じパターンの攻撃を繰り返さない切り替えの速さが、グルスが凡将ではない証でもあった。

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