第43話「罠」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「むふぅ……敵はかからなんだか」


 夜半を過ぎて、ドゥダーグは嘆息する。

 数に劣る敵は、着陣初日の今夜に夜襲をしかけてくると思ったのだ。


 ドゥダーグの傍には、ガルグ軍屈指の剣士百名と魔法士三十名が勢揃いしていた。


 魔法士の中には、相手の動きを止める念動魔法の使い手も複数いる。

 その彼女たちがあらかじめ全力をかけて束縛のための魔法陣を構築して、ドゥダーグのいる本陣に入れば発動する手はずとなっていた。


 その念動魔法にかかれば、どれだけ強い武芸者でもひとたまりもないはずだった。 初日に一番厄介な異世界人を仕留めてしまえば、攻城戦はやすやすと進むと思ったのだが――。


(どうやら、ただの武芸者ではないらしい)


 戦場において、最も大事なことは退き際だ。


 特に、まだ戦いもしないうちから、その不利を察知するということは並大抵のことではない。


(ふん、忌々しい奴よ)


 まだ戦端は切られていないが、すでに闇の中で前哨戦は始まっていた。

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