第35話「憤激の覇王」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
同じ頃、ガルグ城では――。
「なんだとぉおおお!?」
ドゥダーグが目を血走らせながら、激高していた。
目の前には、どうにか戦場から逃げ帰ってきた騎馬隊のうちのひとりがいる。
なお、騎馬隊の隊長は馬に乗ることもできずに刀兵衛に襲われて討死したらしく、今、報告しているのは本来ドゥダーグに御目見えできない立場の新人騎馬隊士である。
「ひぃいっ……」
哀れな騎馬隊士は、先ほどは鬼神のような刀兵衛に恐怖し、今度は悪鬼のようなドゥダーグに怯えることになった。
「おいっ! もう一度言えぇ!」
そんな騎馬隊士を苛立たしげに怒鳴りつけながら、ドゥダーグは促す。
「は、ははぁっ! 刀を持った気味の悪い男の夜襲により、我が軍は本隊も騎馬隊もほとんど壊滅的いたしました! 無事、城まで帰ってこられたのは騎馬隊の五十騎のみ! き、騎馬隊長は討死! あ、あとは、戦場で兵士たちが騒いでいた話によれば、総大将のズフォルクさまも襲撃を受けて、おそらく討死なされたものと思われます!」
――ズガァアアン!
ドゥダーグは憤激のあまり、手に持っていた鉄扇(てつせん)で目の前の豪華な装飾の施された机を破壊した。
「ひぃいいっい……!?」
騎馬隊士の惨めったらしい声が、さらに怒りに拍車をかける。
「おまえら五十騎は味方を捨てておめおめ逃げ帰ってきたというのかぁっ!」
「も、もっ、申し訳ございませんっ! し、しかし、あの気味の悪い男は、遠目から見ていても、鬼神の如き強さでっ! 歩兵も騎馬隊もまったく歯が立ちませんでした! あれは、もはや人ではございません! 軍神としか言いようがありません!」
夜の闇の中、次々と血飛沫が上がり首が飛んでいく光景を思い出したのが、騎馬隊士は歯をガチガチ鳴らして震えていた。
その表情からすると、どうやら嘘は言っていないようだ。
しかし、完全に虚を突いた夜襲とはいえ、二千もの兵を相手にひとりで戦ってほぼ壊滅させるとは、俄かには信じがたい。
ズフォルクが凡将であり、魔法士も付属させず、兵たちの質も高いとはいえなかったが――それでも一対二千の戦いで、千九百五十名が討死だなんてバカげている。
それに、そんな常識外れの武芸者がいれば、この世界で噂にならないはずがない。
(となると、異世界人か……?)
この世界に時折現れる異世界人。それらの中には未知の知識や技術、新たな武術を齎(もたら)す者が出る。
ドゥダーグが王になってからも幾人かそのような異世界人は現れたが、ドゥダーグはそれらの者を例外なく捕えて拷問し、知識や技術をこの国の者に強制的に伝承させるとともに、用済みとばかりに処分してきた。
ドゥダーグにとっては、異世界人など利用するだけ利用して捨てるものにしかすぎない。なお、武人らしき者が召喚された場合は、後顧の憂いを断つために即座に殺してきた。
(忌々しい異世界人をルリアルは使っているというのか!)
病弱だという話だったリリア姫も、なかなかの曲者(くせもの)だ。
そんな化物じみた武人まで使いこなすとは――とんだ女狐である。
「……ぐぬぅ。都まであと少しというところだったが……ここは全力で叩き潰さねばならぬようだなぁ! 待っていろ、ルリアルのゴミどもが! わしに逆らったことを、ありとあらゆる地獄を味わいながら後悔するがいい!」
……この日、ドゥダーグの早馬によって、西部国境付近に進駐していたバジム討伐軍は急遽、ガルグ城に呼び戻されることになった。
ドゥダーグ自ら総大将となり、全軍を挙げて東部方面の小国――ルリアルを焦土と化すためである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます