第34話「馬と凱旋」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「……ふぇっ!? は、白馬に乗った刀兵衛さまが、軍馬の大群を引き連れて戻ってきましたっ!?」


 城の展望台から刀兵衛の帰りを待っていたリアリは、自分で報告しながらその光景に吃驚していた。


 刀兵衛はいつもと変わらぬ無表情のまま白馬に乗り、その後ろを百にも及ぼうという数の馬が粛々とついてきている。


 それを隣で見ていた園は、呵々大笑する。


「ふははははははは! さすがは刀兵衛なのじゃっ! 戦利品もあんなにたんまりと持ってくるとはのう! いや、持ってくると言うと語弊があるかのう? 戦利品を引き連れてくるとはっ! くくくっ! 白馬に乗った刀兵衛、なかなか様になっておるではないか!」


 リアリから見ても、なかなかにシュールな光景だ。


 でも、あれだけ精強な軍馬がいると心強い。ルリアルにも馬はいるのだが、品種的に西方のガルグよりもだいぶ体格が劣るのだ。


 刀兵衛が言うには、剣技を鍛え上げた兵士は騎馬武者よりも遥かに強いとのことだが、移動をする上で、やはり軍馬は役に立つ。


 兵糧を集めるときに「……これから、軍馬が手に入るかもしれませぬゆえ……」と、馬用の飼料も買い集めるように言われて疑問に思っていたのだが、これで得心がいった。


 しかし、ガルグ軍に単独夜襲をしかけた上にあれだけの軍馬を引き連れて戻ってくるとは、やはり刀兵衛は軍神としか言いようがない。


「まあ!」


 リアリと園の声を聞いて展望台にやってきた姉も、白馬に乗った刀兵衛とその後ろを粛々と従ってゆく軍馬たちを見て驚きの声を上げた。


「刀兵衛さま、まるで白馬に乗った王子さまのようです!」


 姉は少し天然なところがある。 


「そ、そうですかね……」


 リアリからすると、むさ苦しい刀兵衛に王子さま要素はまったくないのだが、姉にとってはそうではないらしい。


 それはそれとして……三人が展望台から見守る中、白馬に乗った刀兵衛は城門をくぐって凱旋したのであった。

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