第33話「死屍累々の朝」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東の空が明るくなり、太陽が顔を出す。
地上は死屍累々、緑豊かな山村は血の色で染まっていた。
結局、刀兵衛はひとりで千七百五十もの将兵を討ち取った。そのほか敵の同士討ちで二百名が死んだ。
逃げおおせたのは、村から離れたところに野営していた後詰めの騎馬隊二百のうち戦闘に巻きこまれる前に一目散に逃げた五十騎ほど。
刀兵衛と言えど、さすがに乱戦の中で全力で逃げる騎馬隊まで追いかけて斬ることはできない。もっとも、愚かにも向かってきた百騎と、馬に乗る前に戦いに巻きこんだ五十名は斃したが。
なお、無事に捕獲した軍馬は、ルリアルに送るつもりである。
ルリアルにとって、よく訓練された軍馬は貴重だからだ。
戦闘において、刀兵衛は騎馬武者より徒士のほうが剣技を発揮できる分、上だと確信していたが、単純に長距離の移動には軍馬があったほうがよい。移動のときに軍馬を使い、いざ戦闘時には馬を降りて戦えばよい。
ともあれ、このたびの夜襲で敵は千九百五十名もの将兵を失ったことになる。
刀兵衛の剣技は風のように速いがゆえに返り血はほとんど浴びず、着ていた服も綺麗なものであった。
(……元いた世界に比べて、この国の将兵は、実に脆きもの……)
ただ、ここまで圧勝できたのは、相手に魔法を使う者がいなかったことが大きい。
そして、相手が完全に油断しきっていた上に同士討ちも起きてくれたことでだいぶ楽に戦うことができた。
刀兵衛は奪取した軍馬のうち最も立派な白馬に乗ると、ほかの馬を引き連れてルリアル城へ向けて戻っていった。
ガルグの軍馬たちが刀兵衛の威圧感によって粛々と従って続いていったのは、傍から見れば滑稽な光景かもしれないが、刀兵衛はいつもと変わらぬ無表情である。
もっとも、この光景を見られたのは鳥や小動物ぐらいなもので、もう周囲に生きた人間は誰もいなかったが――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます