第21話「びっくりぎょうてん」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……あ、刀兵衛さま、園さまっ! ご無事でしたかっ!?」


 石段の前には、持ち運び式の文机(ふづくえ)に書物を広げて書きものをしているリアリがいた。


「おお、リアリ、わらわたちを待っていてくれたのかえ?」


「はいっ! ちょっと調べものもあったので……それに、おふたりが頑張っているのに休むのは気が引けて……」


「……休息をとることも大事でござりまする……」


「は、はいっ、ご心配をかけて、すみません……! それで、どうでしたかダンジョンは? 何階まで下りられましたか? あの、お怪我などは……」


 まさかダンジョンを完全攻略したとは夢にも思わないのだろう、リアリはそんなふうに尋ねてきた。


「ああ、それはじゃな、刀兵衛が無双の活躍をして、最下層まで辿りついたのじゃ!そして、そこにいた巨大な骸骨騎士を倒して、秘薬も手に入れたのじゃ! 金銀財宝や武具もたくさん持ち帰ってきたのじゃ!」


「…………ふえっ?」


 あまりにも想像を超えた返答だったのだろう、リアリはこれまでにない年相応の少女らしい表情をして、きょとんとしていた。


「…………す、すみません、ちょっと、ぼーっとしていたようで……もう一度聞いてもよろしいでしょうか?」

「うむ、信じられぬかもしれぬが刀兵衛の無双の活躍により、一挙に最下層まで到達したのじゃ! そして、そこにいた巨大な骸骨騎士を倒して秘薬を始めとする金銀財宝を手に入れたのじゃ!」


「ほ、ほ、ほ、本当ですかっ!?」


「うむ、やはり刀兵衛の剣技は圧倒的じゃった。わらわだけだったら、仮に最下層まで辿りついても、絶対に最後の巨大骸骨騎士は倒せんどころか死んでいたじゃろう。ほれっ、戦利品はこのとおり! リアリに持たせてもらった『百納袋』に入っておるぞ!」


 そう言って、園は腰に提げていた袋を手にとって掲げた。


「ふぁー……」


 驚きのあまりリアリは童女のように目を丸くして、間の抜けた声を上げてしまう。


「……過去の文献も含めて、どんな強者や勇者が挑んでも攻略が不可能と言われたダンジョンが……たったの二時間で攻略できてしまうなんて……刀兵衛さんは、本当にチートすぎます……」


「……ちいと? なんでござりまするか、その言葉は……」


「あ、はい……ええと、とんでもなくすごいというか、普通じゃないというか……ともかく、刀兵衛さんがすごく強いってことです!」


「……左様でござりますか……しかし、まだまだ拙者は修行中の身……おそらく上には上がいるものと存じまする……慢心することなく、これからも一筋に剣の道を極めていこうと存じまする……」


 剣の求道者である刀兵衛は、あくまでも謙虚であった。


「一応、持ってきた戦利品を一度、ぜんぶ並べてみようかのう?」

「あ、はい、お願いいたしますっ。わたしの分析魔法で、調べてみますからっ!」


 園は『百納袋』から手に入れたアイテムを取り出して、ひとつひとつ床に並べていった。


 なお、袋に手を入れた瞬間――中身が見えていないにもかかわらず、どこになにが入っているかが脳裏に浮かんでくる。実に不思議で便利な道具である。


「こ、こんなに大量の金銀財宝とレアアイテム、武具があったのですかっ……!?」

「うむ、ダンジョンにあった宝箱は全部調べたのじゃ。中には魔物が化けたものもあったが……して、真贋のほどはどうじゃ?」

「あ、はいっ! 今、確かめてみますっ!」


 リアリは軽く目を閉じると、集中力を高める。

 そして、素早く呪文を唱え――ゆっくりと、目を見開く。

 それとともに、リアリの小さな身体は青白い光に包まれていった。


「……。……。……」


 そして、アイテムをひとつひとつ視界に捉えて、調べていく。

 その様子を、園と刀兵衛は見守った。


「…………ふぅ」


 すべての収穫物を確認して、リアリは大きく息をついた。

 それとともに、身体を覆っていたオーラが消えていく。


「ど、どうじゃった? まさかニセモノということはなかろう?」

「はい、大丈夫ですっ! ぜんぶ本物です! 金銀財宝の価値はうちの領内の年貢どころか百年以上レベルですし、武器や防具も伝説級のものがいくつもありました! そして、なによりも秘薬が本物で本当によかったです! これで、姉さまの病を治すことができます!」


「おおおっ! それは本当によかったのじゃ! これでみんなニセモノだったりしたらガックリくるところじゃったからのう!」

「……お役に立つことができて、拙者としても恐悦至極に存じまする……」


 リアリは瞳に涙を浮かべると、園と刀兵衛に向かって頭を下げた。


「ありがとうございます! おふたりのおかげで姉さまを、そして、この国を豊かにすることができそうです!」


「ふふ、本当によかったのう。まあ、がんばったのは、ほとんど刀兵衛じゃがな!」


「……拙者の力でよければ、これからもどうぞお役立てくだされ……拙者としても強き相手と戦うことができて、よい経験になりましてござりまする……」


 小さな身体で姉と国のためにがんばってきたリアリのことを考えると、園としても働き甲斐があるというものだ。


「うむ、わらわも貴重な実戦経験を積むことができた。これからも、みんなでがんばっていくのじゃ!」

「はい! よろしくお願いいたします!」

「……御意にござりまする……」


 こうして園と刀兵衛は、ルリアル城地下の隠しダンジョンを完全攻略して、救国の一歩を踏み出すことができたのであった。

 

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