流浪最強剣豪異世界無双記

第18話「人外魔境の激戦」

　巨大骸骨騎士は動かず、こちらも攻めず――再び、睨みあいとなる。

(……また、睨み合いなのじゃ……)

　心を落ち着かせようとするも、背中にじっとりと滲む汗が気になる。

　いっそ動き回って槍を振るっているほうが、よほど気楽だと思えた。

　一秒、二秒がやたらと長い。

　なにもしていなにもかかわらず、精神が削られていくのがわかる。

　だが、迂闊に動いたほうが負けることは、刀兵衛ほどの境地に達していない園にもわかった。

　敗北すなわち――死である。

　これまでの人生において、園はこれほどの緊張感と圧迫感を覚えることはなかった。

　刀兵衛は「……強くなるためには戦場に出ることが一番でござりまする……」などと言っていたが、その通りだとよくわかる。

　ただ、何度も戦場に出れば、それだけ死ぬ可能性は高くなる。なお、刀兵衛の言葉には続きがあった。「そして、生き残ることでござりまする」――。

　その言葉を思い出すとともに、空気が動いた。

　巨大骸骨騎士が、一気に間合いを詰めて刀兵衛に襲いかかってきたのだ。

　しかも、先ほどの交戦から学んだのか――腰を落とし気味にして、刀兵衛が脚下からすり抜けることを防いでいた。

「……っ」

　刀兵衛は右側へ跳ぶ。そして、ジグザグに足を使って、さらに距離をとっていく。

　それを追尾するように巨大骸骨騎士は方向を転換しようとした。

　その一連の動きによって、園の視界に巨大骸骨騎士の背中(というよりも背骨と言うべきか)が露わになった。

「っ、そこじゃあっ！」

　一瞬反応が遅れかけたが、園は背を向けた相手の隙を逃さないという武人の本能に従って、一気に間合いを詰めて、槍を繰り出した。

　狙うは、先ほど刀兵衛が傷つけた脚部分である。

　――ズガガガガガガガガガガッ！

　骨を削る音とともに、十度に及ぶ渾身の突きを一点に集中させた。

(よし、やった！)

　確かな手ごたえを感じて心が高揚したが――その感情の動きこそが隙になる。

　巨大骸骨騎士は、その場で独楽(こま)のように全身を回転させ始めた。

「なっ――!?」

　攻撃が決まりすぎたことで、逆に回避が遅れる。

　持っていた槍が大剣によって弾き飛ばされ、さらに巨大骸骨騎士が迫ってくる。

　当然、大剣の狙いは園だ。

　やはり、園には圧倒的に実戦経験が足りていなかった。

　攻撃が決まったことで心が浮き上がり、思わぬ相手の逆襲で心の動きが止まってしまう。そうなると、あとは命を刈りとられるばかりだ。

「……」

　だが、この場にはどんな場面にも動じぬ戦神がいた。

　高速で回転する巨大骸骨騎士に対して憶することなく――どころか、激しく地面を蹴って飛びこんでゆく。

　一見、無謀でしかない行動に見えるが――。

　だが、神速としか言いようがない斬撃は、過(あやま)たず巨大骸骨騎士の右手首にあたる部分を、音もしないほどの切れ味で斬り落としていた。

　巨大骸骨騎士の手首から先は回転の遠心力も加わって、砲弾のような速さで飛んでいく。

　――ズガアアアアアアアアン！

　壁に激突して巨大骸骨騎士の右手は粉々に砕け散り、一緒に飛ばされた大剣が地面に落ちて激しい震動を起こした。

　思わずそちらに気を取られる園だったが、すでに刀兵衛は次の動作に移っている。

「ずああああああああああああ！」

　巨大骸骨騎士の手首を斬り落とした勢いのまま懐に潜りこみ、今度は刀兵衛自身が独楽のように回転して、園が攻撃した脚部分に容赦ない斬撃を連続で叩きこむ。

　巨大骸骨騎士は無傷の左手で刀兵衛を追い払おうとするが、強く鋭い回転斬撃の前に弾かれた。

　一刀で斬り落とせた手首に比べて脚部分は骨が太かったが、これだけの攻撃を受け続ければ壊れぬはずがない。

　ついに左脚部分の骨が破壊されて、その巨体を支えることができなくなる。

　――ズシャアアアア……！

　巨大骸骨騎士は不格好な形で、片膝をつくことになった。

「……」

　一方で回転を止めた刀兵衛は、一旦、大きく飛び下がって園のすぐ前まで後退してくる。

「……さすがじゃな、刀兵衛」

　あまりにも見事な剣技につい見惚れてしまっていた園は、感嘆の声を漏らす。

　そして、自分が窮地を救ってもらったことをすぐさま思い出して、恥じた。

「……すまぬ、わらわに油断があった」

「……いえ、こやつは人外でござりますゆえ。致し方ないかと……」

　その人外――巨大骸骨騎士は、片脚を失ってまともに立つことができない状態にもかかわらず、なお戦意を喪失していないように見える。

　暗い眼窩を刀兵衛と園に向け――続いて、さきほどの斬撃で途中から切断されている右腕をこちらに伸ばした。

「……園さま、右に回避を」

　刀兵衛はそれだけ言うと、相手の腕に向かって刀を構える。

　訳がわからぬまま刀兵衛の指示に従って、園は右に回避した。

　その直後――。