第17話「ダンジョンの主(ヌシ)」
部屋の中は、まるで宝石箱のように多種多様な輝きに充ちていた。
それもそのはず――壁のいたるところに宝石が散りばめられ、七色の光に包まれているのだ。
そして、部屋の奥には装飾過多なほど金銀宝石で固められた巨大な玉座があり――そこには、さらに輪をかけて大きな骸骨騎士が腰かけていた。
その大きさは、ゆうに刀兵衛の五倍はありそうだ。
――フィイイイーーン…………!
聞いたことのない奇妙な音とともに、その巨大骸骨騎士の暗い眼窩(がんか)が黄金色に輝き始めた。
巨大骸骨騎士はカラクリ人形のようにぎこちない動きで立ち上がると、巨大玉座の横に突き刺さっていた巨大な剣を手に取る。
さっきまでは感じなかった殺意が放たれ、急激に場を支配し始めた。
「む、どうやら、わらわたちを排除しようというようじゃのう」
「……そのようでございますな……」
園も刀兵衛も、それぞれの武器を構えた。
相手は巨大ではあるが、まったく隙が感じられない。
「……」
これまでは剣を下げる自然な構えをとっていた刀兵衛だったが、敵の強大さを感じたのだろう、中段に剣を持ってきた。
園から見て、これまでの刀兵衛は防御よりも速さ優先の構えに見えたが、さすがに今回は防御のことも考えねばならないということだろう。
(刀兵衛が、強敵と認めたわけじゃな……)
武術の達人ともなると、相対したときに相手の力量がわかるという。
相手は骸骨の魔物であり人外なのだが――やはり、伝わるものがあるのだろう。
かくいう園も、相手がかなりの格上だと感じていた。
「…………」
刀兵衛も、巨大骸骨騎士もそのまま刀と大剣を構えたまま、微動だにしない。
その後ろの園としても前面の状況が動かなければ、なにもできない。
刀兵衛の後ろから対峙しているだけでも、すさまじい圧力を感じる。
こうしているだけでも、じっとりと嫌な汗が身体から噴き出てきた。
迂闊に動けば、たちまち斬って捨てられると本能が警鐘を鳴らしていた。
「ぬうっ……」
それでも、微動だにしない状態でずっと耐えることが、息苦しくなってくる。
いっそ、先にこちらかしかけるべきではないのか――という気すらしてくる。
だが、自分よりも前で圧力を受け続けている刀兵衛は――まったく、動じた気配がない。その背中は山のようにどっしりとしていて、揺れ動くことがない。
(さすがは、刀兵衛じゃ……この圧力を物ともしないとは)
園が頼もしげに、その背中を見た――次の瞬間。
巨大骸骨騎士が、見た目からは考えられないような俊敏さで間合いを詰めてきた。
先ほどのカラクリ人形めいた動きとは大違いだ。
「っ!?」
巨大骸骨騎士は、刀兵衛に向かって大剣を振り下ろした。
園がそう認識したときには――刀兵衛は逆に思いっきり踏みこんで、相手の懐に飛びこんで斬撃を放っている。
園は一瞬判断が遅れたものの、右に向かって全力で回避行動をとる。
相手をじっくりと見すぎて、危うく斬られるところだった。
結果として、刀兵衛は巨大骸骨騎士よりも早く相手の左脚に深々と傷を負わせており、すでに向こう側に駆け抜けている。
園もそのままステップを踏むように回避していき、巨大骸骨騎士から距離をとった。
攻撃を外された形となった巨大骸骨騎士は大剣を振り切った体勢からゆっくりと振り向き、刀兵衛と園、両方を視界に入れるような位置をとった(落ち窪んだ眼窩に視力というのもがあるかは不明だが)。
刀兵衛は再び刀を中段に構え、園も槍を相手に向ける。
刀兵衛のつけた傷は、深々と巨大骸骨騎士に刻まれている。
しかし、生きている人間や獣と違って、目の前の巨大骸骨騎士は呼吸もしなければ傷から出血もしない。
(……やりにくいといったら、ないのう……)
これでは刀兵衛の斬撃がどれだけ効いているのかわからない。
その上、攻撃時にはあの巨体からは考えられぬほどの速さであった。
あれほどの大剣なら、かすっただけでも致命傷になりかねない。
回避に成功したといっても、一瞬、首が刈り取られたかと思うほどの風圧だった。
冷や汗を額から垂らす園だが、刀兵衛は無風の湖面のように落ち着き払っている。
(……まさに、明鏡止水の境地といったところじゃのう……と、感心している場合ではない……せめて、足を引っ張ることだけは避けねば……)
刀兵衛に習って、園も心を落ち着かせていった。
心が揺れ動くことは、即、死に繋がる。
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