第15話「宝箱(?)」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「……む、あれはなんじゃ?」


 しばらく進むと、広い部屋に出た。


 その部屋の中央には、装飾の施された木製の箱――おそらくリアリの話していた『宝箱』というものに相違ない――が三つほど、無雑作に置いてあった。


「おおっ、これに金銀財宝が入っておるのじゃな! こんなに簡単に見つかるとは! 幸先が良いではないか!」


 喜んで『宝箱』に近づこうとした園であったが――。


「…………」


 刀兵衛は刀を提げたまま、園よりも先に『宝箱』に接近する。

 そして、三つ並ぶ『宝箱』のうち真ん中に向かっていきなり刀を振り上げ――思いっきり振り下ろした。


「と、刀兵衛っ!?」


 いきなり『宝箱』に斬りつける刀兵衛に、園は目を丸くする。


 ある程度、刀兵衛の奇行というか理解を超える行動には慣れているつもりであったが、まったく意味がわからない。

 だが、一瞬後――。


 両断された『宝箱』は、先ほどの骸骨の騎士と同じように淡い光を放ちながら霧消していった。


「なっ――!? なんじゃ、これはっ!?」


 それは、つまり――あの『宝箱』だと見えたものは、魔物ということだ。


「真ん中の箱から、わずかながら、殺気がしましたゆえ……」

「……むう、さすがは刀兵衛じゃのう……。わらわには、まるで感じられんかったわ……」


 異世界で初めて見る装飾の施された『宝箱』に、まんまと騙されてしまった。

 そもそも、その『宝箱』を求めてダンジョンに入っているので――つい気分が高揚して、警戒を怠ってしまったのだ。

 園としては、己の未熟さを痛感させられる出来事である。


「……目に見えるもの、そして、心を動かされるもの……それらは、すべて隙に繋がりますゆえ……」


「ううむ、確かに、まんまと隙ができてしまったのう……」


 やはり、感情が動くときこそ、隙ができるものなのだ。

 喜怒哀楽、あらゆる感情が、すべての判断を狂わせることになる。


 軍事も内政も、それは同じこと。

 冷静に、やるべきことを判断し、私情を挟まずに実行し続ける。

 これは頭でわかっていても、いざ実際にやるとなると難しい。


「……園様も、実戦を繰り返せば、おのずと辿りつく境地と存じまする……」

「……ふむ。確かに、元いた世界でも、わらわに圧倒的に足りていなかったのは実戦機会じゃったからのう……」


 城主である上に姫でもあるということで、園はどうしても戦場経験が不足していた。刀兵衛のように常に最前線で戦ってきた者には、わずかな違和感をも逃さない厳しさがある。

 それが対人戦だけでなく対魔物戦でも変わらず発揮できているのは、さすがとしか言いようがないが。


「ともあれ、残りの宝箱とやらを確認してみるか。このふたつからは殺気は出ておらぬよな?」

「…………こちらはただの箱と存じまする……では、確認してみましょう……」


 宝箱は特に鍵がかけられているわけでもなく、蓋となっている部分を後ろに向って開いていけばいい。


 特に罠が仕掛けられていることもなく、園と刀兵衛は宝箱の中身を確認することができせばよかった。


「ふむ、これは……金塊じゃな。そして、そちらは……銀塊か」


 この世界でも金銀は貴重であり、貨幣として流通している。

 鉱山のないルリアルとしては、こうして金銀を手に入られる機会は貴重だ。


「なんじゃ、こんな簡単に金銀が手に入るとは、内政や軍事を地道にやっていくよりも手っ取り早かったではないか!」


 園は、腰に装備していた百納袋に金塊と銀塊を入れてゆく。

 吸い込まれるように、ふたつの塊は収納されていった。

 袋の大きさは、まるで変わらないし、重くもならない。


「便利というか面妖というか、本当にここは元いた世界とはまったく異なる世界ということじゃな。戦国の世に持ち込めれば、どれだけ戦を有利に進められたことか」


「……まことに不思議なことでござりまするな……」


 物事にこだわらない刀兵衛とはいっても、さすがにこの魔道具を前にすると思うこともあるらしい。とはいっても、ほとんど表情は変わっていないが。


「うむ、こんな魔訶不可思議なものが存在する世界で、せめてわらわたちの武芸が役に立つのは、せめてものことじゃな!」


 戦国の世を生きてきた武人としては、やはりその武芸が役に立つことがなによりのことである。魔法が発達しているぶん、逆に兵士たちの武芸が磨かれなかったはなんとも皮肉な話ではあったが。


「よし、この調子でダンジョン中の宝をすべて手に入れるのじゃ! いくぞ、刀兵衛!」

「はっ」


 宝箱から金銀を手に入れた園と刀兵衛は、再びダンジョン探索を再開した。

 園としても、貴重な実戦経験の場であった。

 

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