第14話「ダンジョン初戦闘~武士VS骸骨騎士」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ダンジョン地下一階は先ほどの祭壇のある部屋と同様、青白く発光する床と壁で構成されており、十分な明るさがあった。


 石段を下りたところは広間のようになっていて、向こうのほうに一本だけ通路がある。

 幅は、人がふたり並んで歩けるぐらいであろうか。


「……拙者が、先に参りまする……」

「うむ、わかった。わらわは刀兵衛の八歩ほどあとからついていくぞ。それなら不意打ちで魔物が襲いかかってきても、問題なく下がれるじゃろう」


 元いた世界でこのような洞窟めいた場所で戦闘することはほぼなかったが、武人としての勘と空間把握能力によって、刀兵衛と園は最適な戦闘態勢を構築していた。


「わらわの槍では不意に懐に入られたときは対処が難しいしのう。それに、刀兵衛が下がったところを見計らって、槍を突き出して援護をすることもできる」


「……左様でござりまするな……拙者が討ち漏らしたときや、やむをえず下がったときは援護のほど、よろしくお願いいたしまする……」


「おう、任せておくがいい! ……ふふっ、こうして刀兵衛と組んで戦える日が来るとはのう!」


 園は、まるで物見遊山へ出かけるように声を弾ませていた。

 そもそも山城の城主だった園は、元いた世界では旅をする余裕もなかったのではしゃぐのは無理もないかもしれない。


 ともあれ、ふたりは物音を聞き逃さないために会話を打ち切り、集中してダンジョン内を進んでいく。


 しばらく進んだところで――刀兵衛が歩を止めた。

 それから遅れること二歩ほどして、園も立ちどまる。


 遠くから――微かに物音がしたのだ。

 刀兵衛は静かに抜刀すると、少し腰を落として進み始める。

 園も、詰まってしまった間隔を二歩分取り戻してから、刀兵衛についていく。


 やがて――向こうから現れたのは骸骨の騎士だった。

 どういうカラクリなのか、骨しかないのに二足歩行を維持している。

 それどころか――手には剣まで持っていた。


 骨だけなので、当然、表情は、うかがい知れない。

 ただ、明確な殺気を放っていた。


「……」


 刀兵衛は、下げていた刀を胸の前に持っていって中段に構えた。

 対する骸骨の騎士は、ある程度までこちらに近づくと急に剣を振りかぶって襲いかかる。


 ――そのときには、すでに刀兵衛は踏み込んでいた。

 疾風の如く、駆け抜ける。


 まるで、瞬間移動でもしたかと見まがうばかりだ。

 そして、一瞬後には。


 ――ガラガラガラ……! カラン、カラン……。


 骸骨は、小手と胴にあたる部分を綺麗に切断されて――無残に崩れ落ちていった。


「……さすがじゃな」


 目にも止まらぬ刀兵衛の剣技に、園は呆気にとられたような声を上げた。

 刀兵衛としては、なにも特別なことをしたわけではない。


 ただ、この一瞬の間に、敵の小手を断ち切って剣を封じ、続いてすれちがいざまに胴を真っ二つにしただけのことだ。


 骸骨の残骸は――数秒後、淡い緑色の光を発して消えていった。


「むう、面妖じゃのう……。これが魔物というものか」


 骨が崩れて地に接したときに音を立てていたのだから、幻のようなものでなく実態があったはずだ。それが、物の見事に消え失せている。しかも、剣までも――。


 園は驚きの声を上げるが、刀兵衛は落ち着き払ったものである。

 その不動心は、幾多の戦場をくぐり抜けてきたからこそ身についたものだった。

 なにがあっても動じない胆力こそ、生き残る秘訣であった。


「わらわには、その域に達することは、なかなかできなさそうじゃのう……」


 苦笑いする園の後ろで――なんとも形容しがたいヴィイイインという異音がするとともに、先ほどと同じ骸骨の騎士が出現する。


 それこそ、空間を転移してきたとしか言いようのない事象。

 だが、そのことについて深く考えているような余裕などない。

 骸骨の騎士は、そのまま剣を振り上げて園に襲いかかったのだ。


「せいっ!」


 だが、園は迷うことなく迎撃体勢をとり、骸骨騎士の腰の骨を突いた。

 刀と違って、斬り払うということに関しては槍は不利である。

 だが――。


「ならば、目ぼしいところをすべて突き崩すまでじゃ!」


 園は、目にも止まらぬ速さで骸骨騎士の骨面積の大きい場所を狙って突きを繰り返す。園得意の「乱れ突き」であった。


 一見、乱雑に突きを放っているようで、その狙いは正確無比。


 骸骨騎士は、己を構成する骨の主要な部分を突き壊され――最後には顔面に強烈な突きを入られられて木端微塵になっていった。


 今度は崩れるまでもなく霧消していく。


「……ふう、こんなもんじゃな」


 刀兵衛の剣技のような切れ味はないものの園には槍ならではのリーチと、大胆かつ繊細な突きの技術があった。


「……見事にござりまするな……」

「ふふ、刀兵衛の剣には遥かに及ばぬがのう!」


 刀兵衛の言葉に、園は頬を緩めた。


「やはり、たまにはこうして身体を動かさねばならぬなっ! これは、このダンジョン、なかなか楽しめそうじゃの!」

「……同意にござりまする……」


 刀兵衛もうなずくと、再びダンジョンの奥へと歩き始める。


「よし、参るか!」


 園も声を弾ませて、そのあとに続いた。


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