第13話「地下ダンジョンへ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「こちらです」


 城内一階奥の隠し部屋の床を外すと、地下へと続く石段があった。

 リアリの先導で、刀兵衛と園は降りていく。


 あのあと刀兵衛と園は軽く食事をとってから、ダンジョンに挑むことにしたのだ。 やはり、腹が減っては戦はできぬ。


 城自体は城下町よりも高い位置にあるので、実際には地下ではないのかもしれないが――ともあれ、石段を下っていく。


 石段が終わり辿り着いた場所は、広間であった。

 そこは、不可思議な青白い光を放つ壁と床で構成されている。

 昼のように――とまでは言えないが、しっかりと辺りを視認できるほどの明るさがあった。


 そして、広間の中央には祭壇めいた場所が設(しつら)えてある。

 四方には白銀に輝く像があり、それはこの世界の騎士を形どられているようだ。


「伝承では、この騎士の像の力によって魔物が上がってこれないということになっています。この地に城ができる以前は神殿が建っており、わたしたちの先祖は神官だったと伝わっています。この祭壇の石段からダンジョンに入ることができることは代々伝わってきました」

「なるほど。なんとも神聖な雰囲気を感じるのう」

「……左様でござりまするな……」


 園はきょろきょろと興味深げにあたりを見回し、刀兵衛は祭壇に向かって静かに歩を進めていく。

 

 リアリの言うとおり、祭壇にはさらに地下へと続く石段があった。

 体感としては城下町と同じぐらいの高さだから、ここからが本当の地中ということであろう。


「これまで、我が国の歴代の強者が……といっても、刀兵衛さまたちからすると軟弱そのものでしょうが……挑んできましたが……凶悪な魔物に阻まれて地下二階までが限度でした。伝承では、地下十三階までという話ですが……ただ、これも伝承なので本当なのかどうか」

「ふむ、それほどの地下構造物を作るとは、古(いにしえ)の人々もたいしたものじゃのう。しかも、魔物までおるとは。まぁ、少しは歯ごたえがあればいいのじゃが」


 園は持ってきた槍を、軽く突き出して素振りをする。

 一方で、刀兵衛は腰に刀を差したまま無言で石段を見つめていた。


「あの、園さまっ、これを持っていってください」


 そこで、リアリは腰に紐でくくりつけていた麻で作ったような小さな袋を園に手渡す。


「ふむ? なんじゃ、この袋は?」


「これは、『百納袋(ひゃくのうぶくろ)』というアイテムです。どんな大きさのアイテムでも百個まで入れることができます。先日、宝物庫を整理していて見つけました。わたし、姉さまほど強力な魔法は使えないのですが、『鑑定』の魔法が使えるので用途がわかるんです。水と食料もこちらに入っています!」


「おおっ! こんな便利なアイテムがあるとは驚きじゃのう! これはよかった。いちいち宝箱を持ってくるのでは難儀じゃからのう! 水と食料もありがたいのじゃ!」

 

 園は『百納袋』を受け取って、自らの腰に括りつけた。


「よし、これで準備万端じゃな! ダンジョンとやら、楽しみじゃ!」

「あ、あの、本当に無理はなさらないでくださいっ」

「大丈夫じゃ。なんといっても、無双の力を誇る刀兵衛がおるからのう。心配には及ばん!」

「……リアリ殿、お気づかい、ありがとうございまする……無理はいたしませぬゆえ……」


 静かに応えて、刀兵衛は石段を下りていく。

 それに園も続きながら、いまだに心配そうな表情のリアリに振り向いた。


「リアリは吉報を待っておるのじゃ! 城に戻って休んでいてくれ! まだその齢で無理をするのは、それこそいかんからのう。成長に障るのじゃ」


「いえ、おふたりがこれから困難に挑むのに休んでなんかいられませんっ」


「この城にとって、リリア姫とリアリ殿は車輪の両輪。どちらも欠けてはそれこそ滅ぶというものじゃ。万が一、隣国が攻めてくるということもあるやもしれぬ。こんなところでぼーっと待っておってもしかたないぞえ? 自分のことを大事にするのも、国を治める者の務めじゃぞ」


 園から諭すように言われて、リアリはそれ以上食い下がることはできないようだ。


「こちらの世界に来てから、まだ日も浅いというのに、おふたりに負担ばかりかけて申し訳ありません。吉報をお待ちしております!」


 リアリは頭を下げると、手にしていた灯りを園に手渡した。


「うむ、本当に働き者じゃな、リアリは。わかった。みなでこの難局を乗り切ろうぞ! 大国に屈するなぞ、面白くないからのう!」

「……それでは、参りまする……御身第一に……」


 刀兵衛と園はリアリに別れを告げると、ダンジョンへ続く石段を下りていった。


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