第12話「城の下のダンジョン」

「実は……この城の地下には『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮があるのです。そこには、どんな病でも治す秘薬や伝説の武器、莫大な金銀財宝があると伝わっています」

「なぬ? 城の下に、そんなものがあるのかえ!?」


 リアリから思わぬ話を聞かされて、園が大仰に驚く。


「はい。ただ……このダンジョンには、強力なモンスターがたくさんいて……過去百年、挑戦した者は誰ひとり最下層に辿りつけずに失敗。大怪我をしながら逃げ帰るか、帰らぬ者となってしまいました……。それでも、何人かが命からがら持ち帰った宝箱からは貴重な武器や金銀を手にすることができました。そこで、刀兵衛さまに、そのダンジョンの攻略をお願いしたいのです。内政や軍事を向上するといっても、我が国は武器や防具が貧弱で、長年、隣国に貢いできたことで軍事に回す金銭的余裕がありません。なので、刀兵衛さまにダンジョンに潜っていただき、武器や防具、金銀財宝を手にしていただければと……そして、なによりも……秘薬を持ってきてほしいのです……そうすれば、どんな薬や聖湯でも治せななかった姉さまの病を治すことができ、魔法を制限なく使えるようになると思います……ただ、本当にそんな薬があるのかわかりませんし、危険すぎる探索になると思うのですが……」


「ふむ、そんなものが手に入るのならば願ってもないことじゃのう。内政や軍事を発展させるといっても、すぐにはなんとかならん。それは探索してみる価値がありそうじゃ。……どうじゃ、刀兵衛?」


 園から意見を求められて、刀兵衛は静かにうなずく。


「……拙者に異存はございません……。では、さっそく、今から潜ってみようと思いまする……ご案内くだされ」


 刀兵衛の言葉に、リアリは驚愕の声を上げる。


「と、刀兵衛さんっ! 刀兵衛さんがどれだけ強いといっても、このダンジョンの魔物は本当に強いんですよっ!? それに、ついさっき二百五十もの兵の相手をしたばかりじゃないですか!? せめて、今日は休んで、明日から時間をかけて……」

「……問題ないでござる……拙者ひとりで偵察に行かせてくだされ……もし無理ならば、引き返しまする……」

「刀兵衛、わらわも行くぞ! どうも内政ばかりやっていて身体がなまってしまってのう! たまには槍働きをせんと、武人としての自分を忘れそうじゃ!」


 園もすっかり乗り気のようであった。

 だが、リアリは逆に慌てるばかりだ。


「ま、待ってください、もし万が一おふたりになにかがあったら、この国が亡国の危機に陥ります! ですから、せめて明日、支援の兵が整ってから!」


 わずか六歳ながら、リアリは刀兵衛と園がいかにこの国にとって大事かがわかっている。ただでさえ将に乏しい国にあって、刀兵衛と園を失うのは痛手どころか滅亡にかかわることなのだ。


 だからこそ、万全の態勢で臨みたい――という気持ちはわからないでもないが、時間は有限である。隣国がいつ牙を剥くかわからない。


「……その気持ち、ありがたく存じまするが……心配はご無用でござりまする……それに、守るべき兵がいると、逆にこちらの負担も増しますゆえ……」

「うむ、わらわもついておるので心配には及ばぬのじゃ! まずは実際に偵察してみねば、わからぬこともあるからのう!」


 ふたりから漲(みなぎ)る武人としての確固たる自信に、リアリは逡巡しながらも、最後にはうなずいた。


「……そこまで言うのなら、わかりました。ただ、本当に危なくなったら引き返してください。もしおふたりになにかあれば、この国は間違いなく滅びます」

「安心するのじゃ。わらわも刀兵衛も、もう国が滅ぶところは見たくないのじゃ。決して、この国を亡国の憂き目にはあわせぬ。……のう? 刀兵衛」

「……まったくもって、その通りにござりまする……」


 園の言葉に、刀兵衛も静かに同意するのであった。


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