第11話「しっかり者の妹」

「姉さまー!」


 城のほうから、リリア姫を幼くしたような小さな女の子が出てきた。

 彼女の名前は、リアリ。

 リリア姫の実妹で、まだ六歳の童女だ。


 それにもかかわらず頭脳はルリアルでも突出して高く、この三か月、園と一緒にさまざまな内政に従事して業績を上げていた。


「まあ、どうしたのリアリ?」

「どうしたもこうしたもありません! 姉さま、ちゃんと寝てないとだめじゃないですか! 今朝も熱があったのを、わたしに隠すよう侍女に言ったそうですね!」


 リアリは十歳も離れた姉に対しても憶することなく怒りを露わにする。

 まだ六歳だというのにしっかり者のリアリは、姉に対しても容赦なく意見もするし説教もするのだ。


(やはり、体調がよろしくないということでござったか)


 鍛錬を見て高揚したということもあったろうが、熱っぽかったがゆえに頬が赤くなっていたのだ。刀兵衛の直感は、当たっていたのだ。


「ごめんなさい、リアリ。……でも、少しぐらいの体調不良で公務を休むわけにもいかないでしょう?」


「いいえ、姉さまにとっては休むのも仕事のうちです! わたしがいくらでも代わりを務めますから! ですから、無理せず休んでください! 聖泉への湯治で体力と魔力が一時的に回復したといっても、無茶をするとまた寝こむことになります!」


 リアリは腰に手をあてて、立腹している。


「むう、リリア姫の体調が悪かったとは……わらわは、まったく気づかなんだ……。それなら、養生するべきじゃ。なによりも健康であることが第一じゃからのう」

「……左様でござりまする。御身大事に……」


 リアリや園だけでなく刀兵衛からも言われては、リリアもうなずくしかないようだった。


「……そうですね。今日の仕事も片づけることができましたし、本日はもう休むことにいたしましょう」


 やはり無理をしていたのか、さっきまで紅潮していたリリア姫の血色がだんだんと青白くなっていった。


(ふむ…………)


 領主の健康問題は、大げさでなく国家の命運を左右する。


 刀兵衛も武者修行中に数多(あまた)の領主を見聞きしてきたが、当主が病弱だと親族や家老が権勢を振るうようになり、他国から侮られて内部を切り崩され、最期には攻め滅ぼされるということが多々あった。


 さいわいルリアルは妹のリアリが優秀であり、家臣も凡庸ではあるが野心のない忠義者揃いなので内側から崩れることはないだろうが……。


(……なんとか、リリア姫の健康が盤石なものになってほしいところでござるが……)


 薬師(くすし)でもない刀兵衛には、どうすることもできない。

 刀傷に効く薬草や温泉についての知識はあったが、病となると皆目見当がつかない。そもそも、頑丈そのものの刀兵衛は風邪ひとつ引いたことがなかった。


「では、刀兵衛さま、園さま……先に上がらせていただきます……」

「おふたりとも、お疲れ様です! 姉さまを送っていきますね!」


 リリア姫はリアリに伴われて寝室へと下がっていった。


「…………ふむぅ、リリア姫には元気になってもらわねばのう」


 園としても、やはり領主の健康問題は心配なようであった。


 内政と軍事の面で向上しても、肝心の姫が戦の真っ最中に倒れられては兵の士気が落ちてしまう。こればかりは、刀兵衛と園がなんとかできるものではない。


 そのまま立ち話(というよりも、ほとんど園がしゃべり、刀兵衛が最低限の相槌を打つという繰り返しであったが)をしていると、リアリが戻ってきた。


「あの、おふたりにお話が――」


 相変わらず六歳とは思えぬ知性を感じさせる表情で、リアリは刀兵衛と園に切り出してきた。

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