第2話「死」

◇ ◇ ◇ ◇


 気がつけば、もう刀兵衛の前に立ちはだかるものはいなかった。

 敵の部隊を率いていた将は、乗っていた馬とともに無惨な屍を晒している。

 つまり、相手の後方部隊を刀兵衛はたったひとりで壊滅させたのだ。


 園姫はひたすら前へ進めといった。もう城へは戻ってはならぬ。振り返らず進み、また新たな領主のもとで武勇を振るえ、と。

 だが、もう刀兵衛は新たな領主に仕える気には、どうしてもなれなかった。


 血刀を下げたまま前へ進み続け――やがて、たどり着いたのは寒風吹き荒ぶ崖であった。


 その間、敵の追っ手や落武者狩り、果ては山賊なども襲いかかってきたが、すべてを無造作に斬り捨て、ついに海にまで至ったのだ。



(もう、よい)


 やはり命令に背いてでも園姫を守り、落ち延びるべきであった。

 だが、もうすべては終わったこと――。


(もう、よいのだ)


 生きるために生きるぐらいなら、このまま前へ進み海中へ没したほうがよい。

 これ以上生きていても、戦国の世の醜さを見続けるだけだ。


 だから、刀兵衛は死んだ――。


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