流浪最強剣豪異世界無双記

秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家

【プロローグ「闇」】

第1話「落城」


 城は、落ちたらしい。


 山頂は炎に包まれ、天を覆い隠さんばかりに煙が満ちている。


 勝利を確信した敵兵の声は勢いを増し、後方の味方はひとりまたひとりと無念の悲鳴を上げ倒されていく。


(拙者は――姫さまを守ることができなかった)


 「討って出よ」との最後の命を受けて、刀兵衛はただひとり進撃を続けていた。


 敵兵を斬って斬って斬りまくり――不意に襲いくる矢や鉄砲の玉でさえも刀で弾き、あるいは両断するという離れ業で凌ぎ――斃していく。


 だが、刀兵衛は無双の活躍をしても、戦況は覆せなかった。


 多勢に無勢。一騎当千の侍といっても(すでに馬は失われたが)、一気に攻め寄せてきた一万の軍勢を、ひとりでは如何(いかん)ともしがたい。


(五百人ほどの城兵で、よくこれまで持ちこたえたとも言えるが)


 だが、結果として今、城は落ちた。


 最後は姫を守りつつ落ち延びることも考えたのだが、姫は郷土を離れることをよしとはしなかった。


 園姫は、城と運命を共にするという真の武家の娘であった。



 ……もともと刀兵衛はこの地の侍ではない。


 武者修行中にたまたまこの地に流れ着き、善政を敷き領民から慕われる園姫と出会い、頼まれて逗留していたにすぎない。

 そこへ、隣国の強大な大名が攻め寄せてきたのだ。


 勝てるはずがないと、数多の戦場を渡り歩いてきた刀兵衛には、わかっていた。


 だが、城に籠って共に戦おうとする領民を追い払い、城に仕える侍たちすら追い払おうとしてひとり死のうとした園姫の心意気に討たれて、本来、そこまでの義理はないが戦うことにしたのだ。


 だが、最終的には、この地の侍ではない刀兵衛は、ただひとり討って出て他国へ向かうよう命じられたのだった。


(それでも――拙者は城に残るべきだったのではないか)


 だがもう、園姫は炎の中。

 城に残った譜代の侍たちも、あるいは討死し、あるいは切腹して果てただろう。


 それなのに刀兵衛はただひとり生き残り、がむしゃらに敵を斬る、斬る、斬り捨てる。


 園姫からは「刀兵衛の強さは我が山城にはもったいない。よき主君に仕えて、天下に名を成すのじゃ!」と言われていたが――今、刀兵衛の胸に去来するのは虚しさであった。


 刀兵衛は、他国へ脱出するというよりも敵を求めるかのように歩を進める。

 もはやこの世に未練はない。

 こうなったら行けるところまで行き、死ぬつもりだった。


 鬼気迫る刀兵衛に恐れをなした敵の部隊は総崩れになる。

 それを刀兵衛は暗い瞳で追尾し、斬り捨てていった。


 だが――いくら目の前の敵を斬ろうとも、城が落ちた事実は変わらない。


(ひたすら強さを求めて生きてきた拙者の一生とはなんだったのか)


 虚しさが胸に満ちる。

 いくら鍛えても、ひとりの強さだけでは国を救えない。


 女子(をなご)ひとり、守れなかった――。


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