第二十章「一同に会す」
そして、昼食後。
指定された時間ぴったりに一階へ向かったのだが、
「ようやく来ましたか。これで全員、揃いましたな」
と、
確かに、俺と
俺は、その場の面々をざっと見渡してみた。
まず、最年長の
そういえば、心なしか顔色が悪いようだが、これも魔女っぽく見えない理由の一つなのだろうか。実の娘である
あるいは、杉原好恵の事件よりも、赤羽夕子の死体や手記が見つかった一件の方が、彼女の心に影を落とし続けているのかもしれない。赤羽夕子は妖魔だと言い張っていた――おそらく本心から信じきっていた――蛇心美枝にとって、その死体発見は、まさに青天の霹靂だったに違いない。しかも一緒に見つかった手記の内容は、とても彼女には受け容れられないものだったのだ。
蛇心美枝ほどではないが、
その右側に座った蛇心
使用人たちは、蛇心家の三人から離れて、後方に固まって座っていた。昨日同様「使用人なので一歩、身を引く」といった雰囲気を醸し出している。
脚の悪い
椅子一つか二つ分を開けた横に、
そして彼らよりも、さらに奥に陣取っていたのが、阪木正一だ。照明の届きも悪いような暗い隅で、それ以上に暗いオーラを身に纏いながら、ひっそりと座っていた。彼を目にするのは昨日の夕食以来だが、すっかり雰囲気が変わっているように思えた。
座る姿勢も悪いし、背中を丸めているので、体格まで変わってしまったかのような印象だ。また、実際には朝食と昼食の二食を抜いただけなのに、もう何日も食べていないかのごとく、かなり頬がこけて見えた。
よく見ると、目は真っ赤に充血しており、まぶたも腫れている。おそらく一晩中――ひょっとしたら今日の午前中までも――泣き続けていたのだろう。
こうして描写すると長くなったが、俺が大食堂の人々を観察していたのは、ごくわずかの時間に過ぎない。
彼らの様子を見て感じたことなど顔には出さず、俺は珠美さんと一緒に、全体の真ん中辺りに席を取った。
俺たちが座るのを見て、一つ頷いてから、芝崎警部が口を開く。
「では、始めましょうか」
今回は蛇心江美子の事件とは異なり、不可能犯罪と呼ぶべき点はなかったので、話は淡々と進んでいった。
簡単な状況説明の後、芝崎警部は阪木正一に話を促し、死体発見の顛末を詳しく語らせる。俺たちが現場で蛇心雄太郎から聞いた通りの内容であり、特に新しい情報はなかった。
芝崎警部たちが来るまでの現場保持に関しては、蛇心雄太郎が語り手となり、俺と珠美さんで、その証言を肯定する形となった。
「ふむ。では、昨晩の皆さんの行動を教えてもらいましょうか。夕食後の行動です」
夕食時には杉原好恵も俺たちと一緒だったので、殺されたのは、その後ということになる。つまり、阪木正一が風呂へ行き、戻るまでの一時間くらいに絞られるのだ。
その時間、使用人たち――正田茂平とフミ、大神健助、板橋卓也――は、それぞれ別々に仕事をしていたため、四人ともアリバイなし。時間的には、仕事の合間に杉原好恵を殺しに行くのも可能ということで、これは蛇心江美子の事件と同じだった。
同じといえば、蛇心美枝が一人で自室で休んでいたのも、雄太郎・安江夫妻が部屋で二人で過ごしていたのも、前の事件と同じ。違っていたのは、俺と珠美さんが今回は一緒だったことくらいだ。
アリバイについて全員の証言が終わると、フッと会話が途切れる一瞬が生まれた。そのタイミングを見計らって、逆に俺の方から芝崎警部に質問をぶつけてみる。
「一つお聞きしたいのですが……。杉原さんが殺されたのは夕食後の一時間という話ですが、もう少し範囲を絞れないのでしょうか?」
何を今さら、という目を俺に向ける芝崎警部。
確かに、どうせ聞くならば、アリバイ調べの前に持ち出すべきだったのだろう。だが、仕方がない。アリバイ話に耳を傾けていたからこそ、一つのアイデアが浮かんできたのだから。
「ふむ。死体は検死解剖に回しましたから、少しは死亡推定時刻も狭まるかもしれません。でも、あまり期待しない方が良いでしょうな」
目付きとは裏腹に、芝崎警部は、素直に答えてくれた。
俺は軽く、ため息をついてみせる。
「そうですか……。もしも、殺された直後に発見されたという話になれば、一階で働いていた人々は、容疑者から排除できると思ったのですがね」
「ほう? それは一体、どういう意味です?」
これには興味を惹かれたらしく、芝崎警部は目を細めながら、俺に聞き返してきた。
いや芝崎警部だけではない。珠美さんの「あら、いつのまに考えていらしたの?」という視線も、俺は感じていた。
少し調子に乗った俺は、
「ああ、たいした推理ではありませんが……」
と口では謙遜しながら、ゆっくりと自説を披露し始めるのだった。
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