第78話 母親に弱い父親
父親はコーヒーを一口飲んだ後、更に話を続けようと
「えっともうひとつあったな……罪悪感だった……」
と話しだしたのたが
「ただいまーー。あれ? 誰も居ないの? 」
と玄関から声。母親だった。その声が聞こえたことで父親の話が止まる。そして
「あちゃーー 母さんが帰ってきたな。流石に俺も母さんの前でこの話はできないぞ。悪いがここで終わりだな」
と父さんはここで終了だと申し訳無さそうに僕に言う。
いや……父さんの気持ちはわかる。流石に恥ずかしいもんなあ。こればかりは仕方がないよと
「ううん。それわかるから。ここまで話をしてくれただけでありがたいし」
と僕は父親にお礼を伝えた。そんな僕に父親は少し考え込んだ後、ひとつ言葉を告げてくれた。
「これだけ言っておくか。俺も告げられた助言だ。「罪悪感や世間体なんてくだらないこと考えても仕方がない。一番は周りじゃなくおまえらの幸せだろ? 失ってから気づいても遅いぞ」ってな。」
そう言うとダイニングまで来たようですぐ何事もなかったような素振りで
「母さん、おかえり」
と父親は母親へと挨拶をした。
最後の言葉に僕は何も伝えられなかったが、これが父親のきっかけになった言葉なんだろうと僕にも想像することはできた。なので僕は後でゆっくりと考えようと思いつつ無言で父親に頭を下げた。その後、僕も
「母さん、おかえり。どこか行ってたの? 」
と声を掛けるのだった。
「あら。ふたりでここにいるなんて珍しいわね。あっただいま。ちょっと買い物に行ってきただけよ」
母親は僕らを見てそんな事を言ってきた。確かにふたりだけで向かい合って座って話をするなんて久しぶりかもしれない。
「確かに夏樹とふたりだけでこうやって話をするのは久しぶりかもしれないな。俺も平日は忙しいし、休日は母さんと出かけていることが多いしな。それに夏樹と居ても母さんと3人なのが通常だからなあ」
と父親もふたりだけで居た事に対してそんなことを呟いていた。
「で、何を話していたの? ふたりで。私も仲間に入れてよ」
母さんは自分だけ仲間はずれのような気がしたのだろうか? そんなことを言ってくるが
「ごめん。母さんには言えないね」
僕は母親の言葉にそう答える。父親はそんな僕にいらないことを言うなと言いたそうな目を向けてきたが言ったことは仕方がないと諦めたのか
「はぁ……夏樹。母さん、悪いがそういうことだ。これは話せないからもう聞かないでくれるかな? 」
と母親へと答える。それを羨ましそうに見ながら母さんは
「なつ。父さんって私には弱いのよ。聞いたらすぐ話してくれるのに。いらないことを言ったわね。父さん困ってるじゃない。でも……わかったわよ。なつがそう言うなら父さんにも聞かないわよ。まあ男と男の話とかあっても不思議じゃないわよね。ふふふ。夏樹ももうそんな歳になったのね」
としみじみと言う。そうか……そうだったと僕も失敗したと母親の言葉で理解した。母親にはとても弱い父親。その言葉で苦笑いをする父親に僕は心の中でごめんと謝るのだった。
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