第77話 不安
父親は最初僕に話すためだろうか考え込むような素振りをしばらく取った後、
「じゃ、話すかな」
そう言って話を僕に聞かせてくれた。
「うーん。まずは母さんを恋愛の好意を理解したきっかけでいいんだよな。まあ簡単に言うと不安からかなあ」
そう言って父親は昔を思い出すような遠くを見るそんな感じで僕に告げた。そんな父親の話に僕は「それにしても不安? 」ちょっと不思議に思いながら聞いていた。それがわかったのか父親はちょっと苦笑いをしながら続きを話し出す。
「えーとだな。父さんと母さんが一緒にいるようになってしばらくしてからなんだが、黒澤という今では友人なんだがな。その頃は名前と顔を知っているくらいの関係だった奴なんだけどいきなり呼び出しを受けてな。そして黒澤は俺にこう言ったんだ。「お前じゃ千夜さんにはふさわしくない。それでも選ぶのは千夜さんだ。だから俺からも千夜さんへ告白させてもらう」ってな。あっわかると思うが千夜は母さんのことな」
そう母さんの名前は
「最初はこいつわざわざ俺に何言いに来てんだって思ったな。でもな。その後いろいろ考えたんだよな。母さんが人気があるのは俺も知ってた。でも告白された等の話はいつも事が終わった後に母さんから聞かされる程度だった。「振ったから」ってさ。そう、告白するって宣言されて母さんはどう答えるのか……それを待つ間の不安ってのを黒澤の宣言で初めて味わったわけさ」
父さんが話す内容を聞いていると僕もそれに近いと思わされるそんな話だなあと感じながら黙って聞いていた。
「それでな。一番感じたのが……もしかするとお前もそうかもしれない。それはな。俺が母さんがそばにいるのが当たり前だと感じていたってことだ。でもな。いつまでもこの関係でいられるかなんてわからないわけだ。例えば母さんに彼氏ができるかもしれない。そしたらどうだ? 普通なら離れてしまうよな。彼氏が一番大事になるんだから。いや、たとえそうなっても傍にいてくれるとしてもだ。友達としてだな。そうなったら今までの関係じゃなくなるよな。彼氏がいるわけだから」
ここからは僕がそこまで深く考えていなかった話。確かに父親の言うとおりだ。彼氏ができたら……関係は変わる。今まで通りには行かないよな。
僕もそうだったのかな? アキがいること……当たり前だと考えていたのかな? そんなことなんてないのにね。
「まあ、そんな事を考えたわけだが一番重要なのは母さんに彼氏ができるかもしれないって不安を感じたってこと。これがでかかったわけだ。それで思った。俺は恋愛から逃げていたのかなってな。好きな人に振られて傷ついて……そして母さんと出会って一緒に過ごす。母さんに好意はあったさ。ないわけなんてない。そして母さんから好意があったのもわかっていたさ。でもそこから踏み出すのが怖かったんじゃないかなって。母さんが俺から離れてしまうのが怖くて……いくら好意を感じていても振られない保証はないからな」
確かに保証なんてない。
「まあ不安……黒澤の告白の結果を母さんから聞くまで募り募っていろいろと考えたわけだ。そこでわかった……わけだな」
父さんはそこまで話すとまた苦笑いをしてコーヒーを飲んだ。
確かに僕は不安を感じたことはない。ライバル宣言なんてされたこともないし……アキの言葉で安心している僕……なのかなと。
父さんの話を聞いて結局は僕は考えが足りていないって思った。なんというか頭が固いと言うか目に見えるものを見つけてはそれに対して考えるみたいな。大事なところを自分で見つけることができていないというか。
そして理屈ばかり探しているような気がしないでもない。父さんの話を聞いてつくづく実感した。でも父さんもある意味僕に似ているのかななんて思ったりも……
そんな事を考えていると
「まあなんだ。母さんが居なくなったら……という不安を実感したわけだ。ほんとなんでこんなことが起こるまでわかんなかったのか夏樹には不思議なことかもしれないけどな」
父さんはそんなことを僕に告げる。いや……
「ううん。僕……もそんな感じなのかもしれない。話を聞いてて僕って頭が固いんだなあって思いながら聞いてたよ」
と僕も苦笑いをしながらそう父さんに答えるのだった。
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