第74話 時間が終わる
今日ここで一緒に写真を撮ることは今までとは違うことはわかっている。
それでも僕は何も問題ないと只野さんの申し出に無言で首肯していた。だって今まで一緒に写真なんて撮ったことはある……ううん、そうじゃないな。断る理由なんてなにもないのだから。
それに……関係がどうのじゃない。僕が只野さんに今できることだから。どんな関係でも只野さんは大事な人には変わりないと思うから。
僕が首肯したのを見た只野さんはすぐに公園にいる主婦と思われる人に声を掛けに行った。多分写真を撮ってもらおうと声を掛けているんだろう。そんな只野さんのそ姿を見て、只野さん、変わったなってつくづく思えた。どっちかと言うと今までツンとしてこういうことに進んで動く人じゃなかった。僕の前では。今までは「撮っても良いわよ」と言って待ち構えてるそんな感じじゃなかったかななんて……
そんな事を考えていると只野さんは声を掛けた主婦らしい人を引き連れて戻ってきて
「撮ってくれる方を見つけてきたから……」
只野さんは僕にそう伝えながら僕の横に並んだ。そして
「すいません、お願いします」
と主婦らしい人にそうお願いをする。だから僕もその人に
「すいません、お願いします」
と同じように頭を下げた。それを見た主婦らしい人はなにが可笑しいのかわからないがすこし「くすくす」と笑い
「いいですよ。じゃ撮りますね」
スマホを構えてそう僕らに言うのだった。
「はい、撮りましたよ。一応ちゃんと取れているか確認してください」
主婦のらしい人は撮り終わるとそう僕らに伝えてきた。その言葉に只野さんは駆けてその方の傍に行くと写真を確認し、スマホを受け取った後
「問題ないです。ありがとうございました」
と主婦らしい人にお礼を伝えた。僕も続けて無言だったが頭を下げる。そんな僕らの姿を交互に見て主婦らしい人は
「若いって良いわねぇ。ふふふっじゃ失礼するわ」
と言い残し子供のもとへと戻っていくのだった。最後の言葉で僕はほんと一言多いよと思ってしまったが……
そんな僕らが撮った写真。
とくに特徴があるわけではない普通に並んで撮った写真。
ふたりが並ぶ間隔もそう近いわけではないそんな写真。
けれど空があかやけの中、只野さんの大事な場所の公園で撮った写真。
只野さんが望んだ写真だった。
只野さんは主婦らしい人の最後の言葉で照れてしまったのか真っ赤な顔で戻ってくると
「今日はありがとう。したいことすべてできたよ」
そう言って僕に頭を下げてきた。そんな素直な只野さんに
「ううん。僕にできることだったから」
と僕も素直にそう答える。
「ううん。ほんと今日は長い時間付き合ってくれてありがとう。さて……そろそろ別れないとね。空もこんなに赤くなってるし」
只野さんは僕の言葉に空を見てそう答える。だから僕も空を見上げる。真っ赤になった空を。そして
「じゃ……また学校でね」
只野さんはそういうと僕の前から去っていった。振り返り振り返りながら手を振って。
僕はそんな只野さんを最後まで見てその公園を立ち去った。
僕は今日初めてきたにもかかわらず見た目とは全く違う印象の濃い場所となった公園に背を向けて……
なぜかもの寂しさを感じながら……僕は。
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