第73話 この場所で1枚



 思ったよりもときは早く進むものだ。僕はあまり話していないにもかかわらず、只野さんの話を聞いていればいつの間にか空はあかやけに。


 一生懸命その時その時の気持ちを話す只野さんもそれに気づいたのか


「長々と私だけ話しまくって……ごめんね」


 そう僕へと謝ってきた。ううん。逆に僕は只野さんへとこう伝える。


「ううん。全然。僕としても話が聞けてよかったと思う。だって話してもらわければわからなかったことがいっぱいあって。というか僕が全く気にしていなかったことも只野さんは気になっていて逆に僕が申し訳ないなと思ったくらいで。たくさんの言葉ありがとう」


 と。


 すると只野さんは不思議そうな顔をして


「近藤くんって身内? でいいのかな? 近い人には本当に優しいよね。まあ、あまり知らない人には結構きつい物言いだけれど」


 とそう言うとさらに少し可笑しそうな顔に変えてほほ笑みを浮かべていた。


「そういうつもりは僕にはないんだけれどね。まあ、確かに後になってきつく言い過ぎたかなあなんて思うときもあるかなあ」


 只野さんの言葉に僕は少し誤魔化すように頭をかきながらそう答えた。そう言えばなんでなんだろう。なんでなんだろうなあ。




 だからか思わず考え込んでしまった僕。只野さんはそんな僕を見て可笑しかったのだろう笑い出したのだった。




 それから只野さんはあかやけの空を見上げるとそろそろ終わりかと考えたのだろうか僕へとこう告げてきた。


「近藤くん、今日はありがとう。えーーと。今日ね、私、したかったことがあって……ひとつは今まで話したこと。いろんな心の中でくすぶっていた多くの気持ちをきちんと近藤くんに伝えたかったこと。ふふふっ。近藤くんは話を長く続けられて困ったかもしれないけれど……」


 考え事をしていた僕はその言葉に気づくと只野さんを見て話を聞く。ふむ、僕は最初は告白について重い話題になったけれどひとつは叶ったんだって聞いて少し安堵した。でもひとつ?


「ひとつはってことはまだあるの? 」


 そう、僕はまだあるのかな? と気になって只野さんへとそう聞き返していた。すると只野さんは僕の方を見ずに空を見続けながら僕にこう答える。


「うん。あとふたつあってね。でもそのうちのひとつも叶ったよ。叶ったのはね。この公園で初恋の人と時を過ごすこと。ふふふっ私の初恋は近藤くんなのよ。だから今日、最初で最後になるかもしれないけれど、こうして過ごせたことは私のきっと宝ものになると思う」


  只野さんは本当にこの公園が大好きなんだなあと思える言葉だった。見渡せば大きな公園ではない。遊具も特にない。そんな場所だけれど只野さんにとっては多くの思い出を積み重ねてきた場所なんだろう。


「そして最後なんだけれど……うーん。もうお別れしなきゃだしちゃんとお願いしなきゃだね」


 只野さんは今度は僕を見てそう言ってきた。お願いしなければできないこと? 僕はなんだろうと思わず身構えてしまった。すると只野さんの言葉に身構えた僕を見た只野さんは少し笑いながら伝えてきた。


「そんな身構えなくてもいいの。無理なお願いはしないって。お願いっていうのはね。ここで。この公園で私と一緒に一枚記念として写真をとってほしいの」

 

 只野さんの最後のしたかったこととはこの公園で僕と一緒に写真を取るということだった。



 

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