第72話 移り変わるから
もっと悩むかと僕は思った。実際どっちが正しいかなんてわからない。けれど案外すんなりと只野さんへと伝える僕の返事は決まっていた。
数分だっただろう只野さんが僕をじっと見つめる中、僕は伝える言葉を口にした。
「えっとね。どっちが正しいのかなんて僕にはわからないけれど……どうしたいかと言えば只野さんの願いのとおりに返事をしないこと。だから、返事をしないでおくことにしようと思う。だって、只野さんの理由を聞いても僕が無理矢理に返事をしたいというのは僕の気持ちを軽くするための行動でしかない気がするから。聞きたくないのであれば言う必要はないと……そう思えるから」
僕がそう口にすると只野さんは……少し安心したのか表情が緩んだように見えた。けれど僕の話にはまだ続きがあった。
「でもね。ひとつだけ言っておかないといけないことがあるんだ。さっき只野さんが言ったチャンスがあればまた告白したいって言葉。この言葉に対してなんだけれど……僕が只野さんの告白が来るまで待っている保証はないってこと。ぼくにも心があって、例えば僕が只野さんのことを好きになれば待っていると思う。けれど別の人を好きになったり……まあないとは思うけれど他の人に告白されたりしたらその人のことを考えないといけないと思う。そう……心は移り変わるから。僕が今井さんのことが好きだったにもかかわらずこんな短期間に落ち着くことができたように……」
僕は今井さんとの話を出したせいだろうすこしはにかみながら続けて次の告白を待ちはしないと告げていた。まあ、只野さんに告げた言葉は僕のことばかりだったけれど、僕だけでなく只野さんも変わることがないとは言えない。どうなるかわからない未来なのに待ち続けるという事はできないと思って。だって人の心は変わるんだから。僕が今井さんから離れたように……。
今アキと一緒にいるようになったこともそうだし。うん、それが僕の今だから。
その言葉を受けて只野さんは特に顔色も変わることなく
「うん。そのとおりだよ。私に気にせず近藤くんの心のままに過ごしてほしいと思う。私が再度伝える前に誰かと付き合ったとしてもそれは私のせい。私が伝えられなかったせいなのだから。それに私のせいで近藤くんを困らせたくないから。あくまで今回は私の気持ちを聞いてもらったという形でいいよ。ありがとう」
只野さんは少し微笑みながら僕の言葉を受け入れてくれたのだった。
そうして僕と只野さんの告白の件に関してはこのような形で落ち着くこととなった。
その後は、公園で世間話と言うかメインは只野さん。内容は只野さんが以前から僕に対しての気持ちをたくさん伝えてきた。というのも只野さんは以前から僕に対して冷たい態度というかきつい言葉を告げたことを相当気にしていたようだった。だから「このときは……本当はこうだった」と僕に多くのことを伝えてきた。実際僕が覚えていないことや全く気にしていないことばかりで……ある意味困ってしまったけれど。
只野さんも「近藤くんは気にしなかったと思うけれど……」と僕が気にしていないことがわかっているようだけれどどうしても伝えたかったようだった。
その話を聞いて僕は只野さんがこんなにも僕のことを考えてくれていたんだと理解することができた。だってすごい小さいところまで気にしている只野さんだったから。たとえ受け入れられるかわからないにしてもそんな只野さんの言葉に僕にとってとてもあたたかいものを感じたことは確かだった。
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