第70話 お願い




 只野さんは横に座るとふぅと一息ついた後


「ふふふっ」


 とにこやかに笑っていた。そして


「今日は来てくれてありがとう。でも不思議ね。昔みたいに変な態度を取らずに今日はできてる。ほんとに不思議。ふふふっ」


 と少し緊張が取れた顔でそう笑いながら僕に言う。僕はそうなんだと思いながら話を聞いていた。そして


「でも……やっぱり違うなあ」


 只野さんは急にそんな言葉を言いだした。違う? 何が違うんだろうと僕は考えながらも


「違う? 」


 と只野さんへと尋ねていた。すると


「うん。近藤くんの表情」


 と只野さんはぽつんと僕の問いに答えてくれた。僕の表情? どんなときと違う? 僕はきょとんとして只野さんを見て考えていた。そんな僕を見て


「近藤くんは多分気づいていないと思うよ。ある時だけ近藤くんの表情がとても柔らかくなるんだよ。私にはそんな力はないんだなあって。あっどんな時かは言わないよ。自分で考えてね。言うのは……く……しいし」


 柔らかい表情。僕としてはいつもと変わらないと思っているんだけれど、いつもよりもそういう時があるんだって今の只野さんの言葉でわかることはできたんだけれど。でもどんな時かは教えてくれなかった。最後の言葉も聞き取れず……


「うん、やっぱり言わないとだなあ。近藤くん、ひとつお願いがあるんだけれど? 」


 そんな僕の態度を見てからか只野さんはなにか僕にお願いごとがあるらしい。だから


「僕にできることだったら」


 と僕はそう只野さんへと言葉を返した。すると只野さんは僕の言葉を聞くと真剣な顔をして僕へと話し出し、そして


「えっとね。告白の返事だけれどしないで欲しいの」


 と以前のように僕にお願いして来たのだった。




 僕はきちんと返事をしないといけないと思っていた。それを朝から考えていた。けれど只野さんは返事をしないでと今言ってきた。でもなんでまたここで言ってきたのだろうと僕は思う。もしかして僕がその事を考えていることがわかったのかな? とまで思ってしまった。そんな考えを巡らしていた僕に


「また急にこんなことを言い出して驚いていると思うけれど……理由はいくつかあるの。うーん。きちんと理由は言わないと納得できないよね? けど説明するとちょっと長くなるけど良いかな? 」


 と只野さんは告げてきた。長くなろうとこれは聞いておかねばいけないこと。だから僕は無言にはなってしまったが首肯した。すると只野さんは僕から視線を外し前を、公園を見てゆっくりと話しだした。




「えっとね。ここ数日、いろんな事考えてたの。でね、いろいろ気づいたことがあって。そしてやっぱりこれはお願いしないとって思ってたの。それでね、理由なんだけれど……本来私、今の時点で告白するつもりなんてなかったの。だって近藤くんは春に振られたばかり。それなのにその友人が告白するってなんなの? って私も思うし。身近な人から告白されて困惑するのが当たり前。そんな時期にするなんて馬鹿げてるって思ってた。けれど私の態度のせいで近藤くんとの関係が終わりそうになって……だからすべてを話さないと修復できないって思って告白せざるを得なかった。だから……伝えたの。ふふふっ。でも伝えられたことは嬉しかったんだけどね。それとね。私の性格、態度が治らなければ近藤くんと付き合うこともできないって思ってたの。だって今までの態度だったら付き合っても関係が続くわけ無いと思うよ? 」


 そこまで話すと只野さんは一息間を開けて


「もしうまく言っても今のままでは無理だから。だから告白するつもりがなかった……それが理由。これがひとつめ。でも性格、態度は少しずつ治ってきてるのかもしれない。今日もうまく行っているしね。でもこれって千葉さんや大和さんのおかげかも知れないんだよね。強引なんだもの、あのふたり。はぁ……ほんとにもう複雑な気分」


 と彼女はどこに視点があってるのかわからないそんな遠い目で遠くを見ながらまずひとつ目の理由を話してくれた。態度や性格が治る要因って隣のクラスのふたり? 

 そんなことを考えながらも理由はひとつだけじゃないんだと僕は思った。まだ理由があるんだと僕は次の理由もしっかりと心に刻まないといけないと只野さんを見ながら続きを聞くことにした。

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