第65話 犬じゃないって



 僕に呆れてため息をついている四季さんに


「一応これで終わりだよ。只野さんとの話は」


 そう僕はこの話の終わりを告げた。すると四季さんはいつもの表情に戻すと


「うん。わかったわ。とりあえずこの話は終わりね。じゃあ今度は私から話をするわ。まずは1つ目だけど島田くんの話ね。こちらはすぐ終わるわ」


 と僕に告げてきた。ふむ、まずは真也の話をするようだ。でも、そういうことだとまだ別に話があるってことだ。僕はちょっと考え込みそうになってしまったけれど、まずは真也のことを考えないとと四季さんを見つめ直し、話を聞く態勢を整えた。


「とりあえず、今井さんが悩んでいることを話してきたわ。その上でこの件で悩むのは今井さんじゃなくて島田くんだから、もし今井さんと向き合えないなら島田くんが出ていくということで考えてきてって言っておいたわ。ほんと……今井さんが悩む必要なんてないもの。嫌なら島田くんが出ていけばいいってね。まあ、島田くんもその辺はわかっていたようですんなり受け取ったわ。島田くんも「春が悩むことはないから、夏樹と合流するならして欲しい」って即、返事があったわ」


 その言葉を聞いて僕は真也がすんなりと受け入れたんだと驚いていた。僕は四季さんに言われて気付いたことだったけれど真也はわかっていたんだって。その上でいろいろと考えるって言ってたんだって。はははっ僕とは違うなあ……


 僕がそんな事を考えていることがわかったのか四季さんは


「島田くんがわかっていたことに驚いているようね。気にしないでいいのよ。どうせ近藤くん、「僕は鈍感だからわからなかったんだろうな」とか考えているんじゃない? 」


 ほんとにアキにしても四季さんにしても鋭いなあと思う。確かにそうなんだよ。そう思ったんだよ。それを聞いて僕は頭をかきながら気まずい顔をしてしまう。


「ふふふっ。最初はわからなかったけれど、今は理解しているんだから良いでしょ? 近藤くんも理解したらちゃんと考えているでしょ? 気づくのが遅かっただけ。それに対して真剣に考えることができるのならそれでいいのよ」


 そんな僕に四季さんは笑いながらもそうフォローを入れてくれる。でもそのフォローが僕には余計に痛く感じてしまい「あははっ」と笑うしかなかった。四季さんは「しょうがないわね」というような顔をしながらも


「それにね。島田くんはそれだけじゃないから。というよりそちらの方を重く考えていたかもしれないし。言い方悪いけど今井さんはついでだったかもしれない。わかんないけれどね」


 と意味のわからないことを告げてきた。それだけじゃない? そちらを重く考えている? 

 僕はその言葉を聞いて「えっ? 」と困惑した顔をして四季さんを見つめていた。そんな僕を見て


「今の言葉はわからなくていいの。でもね、夏樹くんは必ず知る時が来るから。だから、それまでは気にせず過ごしてほしい……かな? きちんと島田くんが夏樹くんに話すときまで待っててね」


 と四季さんは優しくそう告げていた。




 四季さんの言葉はとても大きかった。僕のわからないことが真也にはいろいろとあるようだ。そして四季さんが言うには真也は僕に告げてくるとまで言っている。ということは僕にも関係あることなんだろうか?

 でも……気にしていても僕にはきっとわからないだろう。話を聞くまで。ほんと察知能力と言えば良いのか……僕にはないよな。

 だから、もう四季さんが言う通り真也が話してくれるまで待つことにしよう……そう僕は思う。

 僕から真也に聞くなんて悩んでいる人にすることじゃないから。ゆっくりまとまるまで待たないと。真也を信じてね。


 僕の考えがまとまったのがわかったのだろうか、四季さんは僕を見て再度微笑みを浮かべて


「うん。待つことも大事なのよ。よしよし、よく我慢できたわね」


 と僕が待てのできる犬のような感じで褒めるようにそう言ってきた。だから


「僕は犬じゃないって」


 と僕も冗談交じりに笑いながらそう返す。そんな僕を見て大丈夫とわかったのか


「じゃ次の話をしましょうか? まあ次が私が近藤くんに話したかった話。そしてこの話で終わりだから」


 そう言って四季さんは次の話へと移してきたのだった。

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