第64話 縁が切れるのが



 放課後、僕と四季さんはふたり屋上へとやって来ると、早速


「少し座りましょうか? 」


 と四季さんから壁際あたりを指差して座ろうと促された。僕は座るという事は話的に時間がかかるのだろうか? と思いながらも頷き、指示された場所へと座り込む。

 すると四季さんはその僕の横へと座り


「さてと……先に明日の予定の話から聞いてもいいかしら? 」


 四季さんは先に只野さんとの話を聞いてきた。僕としてはアキも知っているわけで隠す必要もない。なので


「大した話じゃないんだけどね。只野さんから明日付き合って欲しいって言われたんだよ」


 と僕は素直に四季さんへと説明した。すると


「只野さんから誘われた? 」


 と四季さんは少し怒っているような感じでそう返してきた。そんな四季さんへ


「うん。アキも知ってる。不公平だから付き合ってあげてって言われたよ」


 と僕は怒っている原因がアキのことではないかと思い、そう説明すると


「ふーーん。アキも知っているわけなのね。にしても無理しちゃって」


 と四季さんはアキのことを考えてかそんなことを呟いていた。確かにアキが僕に好意を寄せていることがわかっているのに別の女性に付き合うなんて四季さんから見れば良いことではないと思う。けれど僕にも考えがある。


「あのさ。僕、只野さんに告白されたんだよね」


 僕は素直に只野さんからも好意を受けていることを四季さんへと告げる。その言葉に


「うん。アキから聞いているわ」


 という返事が返ってきた。四季さんもその話は知っているようだ。


「隠してもしょうがないから僕が考えていることを話すよ。はっきり言えば今僕が一番に見ているのはアキ……だと思う」


 と僕は素直にアキに好意があることを話していた。四季さんは僕が素直にそう告げるとは思っていなかったようで少し驚いた顔をしていた。


「アキと会いたいと思うこともあったしアキを見るだけでも落ち着く、そんな時があるんだよ。だから今アキに好意があるって素直に言える。けれどね……」


「けれど? 」


 僕が言いよどんだところで四季さんは悩ましそうな感じでそう繰り返す。


「けれど只野さんからも告白されて僕はまだ返事も何もしていないんだ。だからきちんとしないといけないって思ってて。そうするには只野さんもきちんと見て返事をしないといけないと思うんだ。只野さんって今まで素直じゃない自分しか僕に見せられなかったみたいなんだ。だから……明日それをしっかりと見てこようと思って。まあ一日でわかることじゃないけれどね」


  僕が続けてそう言うと四季さんは


「只野さんも大事ってことかな? 」


 と僕に尋ねてきた。うん、そうだよ。大事だよ。


「そりゃ大事だよ。今まで一緒に過ごしてきた友人なんだから」


 それでも僕は只野さんを友人としてしか今まで見ていなかったんだよね。だからこそきちんと見て返事をしたいと思ってる。はっきり言えば断るだけならすぐにでもできる。でもさ……それだと僕と只野さんの関係も切れてしまうんじゃないかと思うんだ。そして素直になれなかったのに頑張って告白してきた只野さんを何も見ずに答えを出すなんて駄目だと思うんだ。


「友人ね……いろいろと複雑な気持ちなのかもしれないわね、近藤くんも」


 四季さんは文句も言わず、そう言って僕の気持ちも考えてかそんな事を僕に告げてきた。だから僕はそれに対して


「複雑というかよくわかってないんだ。はははっ鈍感って四季さんにも言われたね。そうだよ。僕の気持ち自体、自分でもはっきり理解できていないんだよ。恥ずかしながら」


 四季さんに自分自身を理解できていないと少し恥ずかしそうに告げるのだった。




「とりあえずアキに好意があるとは気付いているのね。ただ、それがどこまでの思いかわかっていない。そして只野さんの思いにどう応えるかを今探しているという感じね」


 四季さんは僕が話した内容をそうまとめ上げた。はははっいっぱい話した気がしたけれどこんなものかと僕は苦笑いをしてしまう。そんな僕に


「多分、複雑になっているのは今井さんに振られてしまった後遺症もあるのかもしれないわね」


 と四季さんは腕を組んで考え込んだ後僕へとそう告げる。今井さんへの告白……振られたことからの後遺症か。さてどうなんだろう。ただひとつだけ思うことがある。


「後遺症かどうかはわからないけれど、うーーん。言葉が出てこないな。そうだね、縁が切れる……が一番近いかな? 縁が切れることが怖い。そういう気持ちがあるかな? アキにしても只野さんにしても……真也も今井さんも。そして四季さんもだね」


 僕がそう言うと、驚いた顔をして四季さんは僕を見つめてきた。はははっ四季さん驚いてるな。もしかして自分が入っているとは思っていなかったのかな?


「そんなに驚いた顔してどうしたの? 四季さんもだよ。もう友人だよね? ほんの数日だけれど四季さんとの関係って結構深いと思うよ? それにこんな事を話せる友人なんてそういないよ? そんな相手と縁が切れるなんて嫌だと思ってもおかしくないでしょ? 」


 僕がそう言うと珍しく顔を少し赤くしてそっぽを向く四季さん。そして


「はぁ……本当に変わっているわね、近藤くんは。告白とかされることはよくあっても友人として縁が切れたくないなんて言われたの初めてよ。アキにも言われたことはないわ」


 四季さんはそう言ってため息をついていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る