第59話 違う夏樹



 最後に真也が呟いた言葉は僕には聞き取れなかったけれど、今は真也が話す番でいい。だから僕は聞くことを止めた。そんな中、真也はまたじっと天井を見上げたまま


「本当に恋愛って難しいもんだよなあ。お互い思い合うってこんなに大変なことだとは思ってなかった。俺らの近しい間柄の4人でもこんなことになってるし。そうじゃない人なら尚更だよなあ。夏樹、俺の好きな人だけれどな。少し待ってくれ。ちゃんと考えをまとめてから話すよ。今はちょっと無理だ」


 と恋愛の難しさについて嘆くとともに僕に話すのは少し待ってくれと言ってきた。いや、別に無理に僕に話す必要なんてないと思うんだ。だから


「いや、無理に話さなくて良いんだ。真也がやりたいようにやればいい」


 と僕が伝えると


「いや、夏樹にはきちんと話してからしないと駄目なんだよ。だから……」


 真也はそう言って真剣な目で僕を見つめてきた。なぜそんな言葉を僕に伝えるのかわからなかった。けれどそんな真也を見て僕は


「はぁ……わかったよ。僕に話をしないと駄目っていうのがよくわからないけれど……まあそれも話せない内容だろうし、真也が話せるようになったらちゃんと聞くよ」


 わからないなりに僕はそう答えるしかなかったのだった。




「ちょっと聞いていいか? 」


 しばらく黙り込んだ後、真也がそう話を切り出してきた。


「ああ、なに? 」


「夏樹には今好きな人はいるのか? 」


 真也からそう問いかけられた。好きな人? 少し前までは今井さんが好きだった。そして今一番気に掛かる人は……アキ。そして告白されたのは只野さん。よくよく考えるとなんだかすごいことになってるな、僕って。とりあえずもう真也に話をしてもいいかと


「とりあえず……ここのところ色々あったんだよ。でさ。少し前までは今井さんが好きだった。まあこれはもう吹っ切れたから問題ない。そしてね、僕、只野さんにも告白されたんだよ。あっただね、返事はいらないって言われててまだしていない。ただ、ちゃんと自分の気持ちを考えて返事はしたいと思ってる。でも……恋愛対象で只野さんが好きかと言われると……今はそうじゃない。そして、アキ。いろいろと助けてもらって一緒に居るようになって……安心できると言うか。今一番気になっている人ではある。ただね。恋愛として好きかどうかが今の僕ってわからなくなっててさ。振られて間もないせいかもしれない。だからちゃんと考えようと今思っているところでね。はははっ真也への返事にはなってないな、これ。とりあえず、今の気持ちはこんなところかな? 」


 と僕は思っていることを素直に説明した。すると少し驚いた顔をした後、何かを思いついた感じで真也は一言告げてきた。


「ならさ。大和さんは? 」


 ……大和さん。まさかこの人が出てくるとは。


「は? あの人はよくわからない人だな。今の僕の恋愛対象に入るかと言うと入んないかなあ」


「ふっそうか」


 そう言って笑う真也に釣られて僕は


「ああ、そうだね」


 そう言って一緒に笑うのだった。




 ふたり笑い終わった後、僕は気になっていたことを真也へと質問する。それは


「ちなみにさ。これから今井さんと只野さんを加えて……というか元通り……とも違うか。もとの4人にアキと四季さん。6人で一緒に過ごせる? まあ真也の問題は今井さんになると思うんだけれどね」


 そう、6人で一緒に学校で過ごせるかどうかだ。真也も辛いししんどいかもしれない。だからちゃんと返事は聞いておきたいと。ただ、こんなすぐに聞くつもりはなかったんだよな。告白って受ける側も告白する側もしんどいって。僕も告白もしたし、告白もされたしでその辺はわかっているつもり。本当は今井さんの話を聞いて、そして真也も聞いてそれからと思っていたんだけれど、もうここまで話したのだから聞かないわけにも行かないし。真也も答えにくいだろうが許してくれ。そう考えていた僕に


「ああ、それももう少し待っててくれないか? 結局は俺が好きな人にどうするかで決まることかなって思うんだよ。だからその考えがまとまるまで……な」


 真也の言うことはよく分かる。だから、その返事を聞いて本当に申し訳なかったと思ってしまった。ちょっと強引すぎた言葉だと


「ごめん。先走りすぎた。そうだよな。そんな急に聞かれても困るよな」


 と僕は謝るも


「いや、いいんだ。というより嬉しいかもしれない」


 と真也は微笑みながらそう僕に伝えてきた。嬉しい? なんで? そう僕が困惑していると


「いやさ。夏樹が先頭切った形でいろいろと話をまとめようとしているだろ? 今までさ。夏樹って俺のフォローばっかりに気を使ってさ。表に出てこないタイプだっただろ? 実際はできるやつなんだよ。だからさ。そういう夏樹が見れて嬉しいかなって」


 真也はそう言ってまた微笑みながら僕を見つめてきたのだった。

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