第57話 ぱたぱた母さん



 家に帰り玄関を開けるとスリッパの音がぱたっぱたっと慌ただしく聞こえてくる。はぁ毎度のことだなあと僕は思いながら靴を脱ぎ家へと上がる。


「母さん、ただいま」


 僕は台所まで行くと、多分僕の夕飯だろうものを作り終わった様子の母さんがいたのでただいまと声をかけた。


「なつ、おかえり。あっそうそう、今日は……」


「父さんの仕事が早く終わるから? 」


「そうそう、早く終わるから外でデートしてくるね」


 そう嬉しそうに僕に伝えてくる母さん。本当に仲のよい夫婦だ。未だにこうやって時間があればデートだと言ってふたり出かけてしまうのだ。まあ、僕ももう高校生だしふたりが出かけても問題はないからいいけどね。


「ほんと仲いいよなあ、父さんと母さんは……」


 僕がそう言うと、母さんは不思議そうに


「なんでそんな事言うのかよくわからないけれど当たり前でしょ? 好きで夫婦になったのよ? それに夫婦になったからって終わりじゃないのよ? 私達はこれからも変わらずラブラブで居たいわよ? 枯れたくないんだから! 」


 と母さんは胸を張って僕にそう言い返してきた。うーーん。他の家の両親もこんな感じなのだろうか? なんて事を考えながらも僕は気になったことを聞いてみた。


「ねえ? 父さんと母さんの馴れ初めは? 」


 なぜかそんなことを急に聞いてみたくなった僕。その言葉に母さんはきょとんとした顔をした後


「ははーーん。なつも好きな人ができたのかな? 」


 と今度はからかうような顔をして僕に尋ねてくる。それに対して僕は


「はははっ振られたよ。まあそれは良いとしてちょっと聞いてみたくなったから」


 と振られたことを素直に告げるもただ興味本位で聞いてみたくなったと母さんに伝える。だってこんな仲の良い関係を見せられるとなんだかそういうのって聞いてみたくなるよね?


「あらら。振られちゃったかあ。まあ、次に行こう次に行こう。あっそうそう、父さんも私と付き合うちょっと前に別の人に振られていたのよ? 」


 そんな僕に気を落とすこともなく前を向いていこうと前向きな言葉をくれた母さん。というかうちの母さんが落ち込むところってほんと見ないんだよなあ。いつも前向きで。元気で。

 というよりも……付き合う前に父さんって別の人に振られていた? なにそれ? 僕が困惑した顔をしていると、母さんは


「最初は唯の知り合いって程度だったのよね。でも、父さんが別の人に振られてね。愚痴を聞いてあげてたのよ。そしたらいつの間にかふたりでよく居るようになってね。出かけたりもするようになって。そしたら……私、惚れちゃったのよ。父さんにね。だから猛アタックして捕まえちゃった。まあそれが馴れ初めになるかな? 」


 話を聞いてみるとどうも母さんのプッシュから付き合い始めたようだった。というか……話を聞いてて思ったのが、僕とアキの関係に似てないかい? まあ付き合ってはいないけれどアキにいろいろと相談したし、好意も持ってもらっているみたいだしなあ。


「……やっぱり母さんからなんだねえ」


 僕はぼそっとそう呟くと、母さんは


「でもね。父さんも私といろいろとやり取りしているうちに好意を持ってくれていたらしいのよ。まあ、なかなか落ちてくれなかったけれど。振られて私に乗り換えるような態度になるのが嫌だったって考えていたらしくてね。まあ、そういうところも父さんの良いところよねえ」


 と少し惚気が入った感じで僕にそう告げてきた。はあ……いやまずい。母さんが惚気けるとずっと父さんとの惚気話に入ってしまう。そう思った僕は


「母さん、夕飯は出来てる? 出来てるなら早く行かないとじゃない? 」


 と惚気話から話を逸らすようにそう伝えると


「あらあら、もうこんな時間。食事はテーブルの上に作っておいてるから食べておいて。ご飯は冷凍しているのがあるから電子レンジでチンっして食べてね。それと……」


 母さんは言葉を伝えてくるが、いつものこと過ぎて僕は聞かなくても良いと


「もうわかってるよ。いつものことだから。ふたり楽しんできて」


 僕は呆れた顔をしながらも素直にそう思いながら母さんに伝えたのだった。




 それにしても父さんと母さんの関係……僕とアキに似ていたんだなあ。

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