第56話 もう1回聞いていい?
校庭へと出ると、いつものように真っ先に気づいた誰かさんから僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
「なっつきくーーん」
その声に僕はなんだか癒やされていた。本当におかしなものだ。この前までは恥ずかしいやら目立ちたくないやらそんな気持ちだったはずなのに。僕はそんな声を出して向かってくるアキを見つめていた。
「今日も遅かったわね。なにかあった? でもなんだか嬉しそうな顔をしているけれど……よくわかんないなあ」
アキからの言葉に僕はアキと会えた嬉しさが顔に出ているのかとちょっと困惑してしまう。けれど
「ああ……ちょっと真也と今井さん、そして只野さん。そして僕が鉢合わせしちゃってね。ひさしぶりに4人が揃ったんだけどまあ……良い場面じゃなくてね」
と嬉しそうな顔というところはごまかしながらアキに簡略ながらも素直に先程のことを説明した。そんな僕に
「4人が合うだけならもうなにも問題ないと思ったけれど……場面かあ。ちょっと思い浮かばないけれどまずい場面だったわけね。そっか」
と少し考え込む素振りをしながらそうアキは僕に言った。そんなアキに
「明日にでもどういう形になるかわからないけれど話はしてみるよ」
と僕は微笑んでそう伝えると、アキは
「うーーん。夏樹くん、しっかりと吹っ切れてるみたいだね。前みたいに立ち止まっている様子がまったくない気がする」
とアキは僕の様子からそんなことを感じたようで。うん、アキの言うとおり今はまたみんなで過ごせるようにしたいということしか考えていない感じ。そう、前に進んでいるんだって感じかなあ。それに振られたことでの後遺症、悲しんだり悩んだりはもう無い気がしていた。
「たしかにそうかも知れないね。なにか引っかかるようなものが今はまったく感じられないかなあ……」
僕はアキの言葉にそう返すと……アキは少し黙り込んだ後
「もう1回聞いていい? 」
と一言告げてきた。その言葉に僕は何をもう1回なのかよくわからなかった。けれど聞かれても問題ないと
「よくわからないけれど……いいよ。なに? 」
とアキへと返事を返す。すると
「今井さんのことがまだ好き? 」
アキは僕を見つめてそう尋ねてきた。ああ……そのことかと僕は本当に鈍感だよと自分が恥ずかしくなってくる感じに襲われてしまう。けれどアキに言葉を返すために思っていることを素直に伝える。
「今井さんはもう恋愛感情では好きではないよ。吹っ切れたから。もう違うから」
僕がそう伝えると、アキはその言葉を聞いて嬉しそうな顔をし
「うん、わかった。ありがとう」
と僕に言葉を返すのだった。
「ふふふっ夏樹くんの言葉でこの後も頑張れる気がしてきたわ」
アキは嬉しそうな顔でそんな事を僕に言ってきた。そして
「でも、これからは只野さんも積極的に来るんじゃないかなあ」
とアキは只野さんのことを思い出したのかそんな事を言ってきた。どうなんだろうね。ただ、僕も告白されたまま返事もせずはどうにかしたいとは思っているけれど……そうするには僕の気持ちをきちんと考えないといけないよなと僕は思う。そんな事を考えて黙っていた僕にアキは
「夏樹くん。私はひとつ片付いたら動くから……。ただこれがすぐ済むか時間がかかるかはよくわかんないけれどね」
うーーん。アキはいつも元気に動いている気がしないでもないけれど、今の言葉になにかしら意味があるんだろうなあと思う。何かを考えているんだろうなあと。でも鈍感な僕にはわからない。なら僕はアキが動くまで待っていようと思う。
「僕も自分の気持ちを整理しないと行けないよなあ。もう大分落ち着いてきたわけだし。そろそろ……」
僕がそんなことをぼやいていると
「よかった。本当に落ち着いているようだね」
とその様子を見たアキはそう言ってまた僕を嬉しそうな顔で見つめてくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます