第55話 久しぶりの4人



 そういえば今日は珍しく真也と帰りに言葉をかわさなかったことに気づく。というのもアキと大和さんと会話が終わって真也を探してみたがもう教室にはいなかったからだ。だから僕は真也にもなにか用事があったのだろうと諦め屋上へと向かっていった。


 そして屋上に着きドアを開けると……


 真也と今井さんそして只野さんが屋上にいた。あれ? なんで真也が屋上にいる? おまけになにか気まずい雰囲気になっている気がした。なんだか入りづらい……


「えーーと、なぜかみんな揃ってる? 」


 と僕は思わずよくわからないことを口走った。すると


「なんで夏樹がここに? 」


 と驚いたように真也が僕にそう尋ねてきた。そんな真也に僕は今井さんと只野さんを見た後


「今井さんと只野さん、ふたりとここで待ち合わせしていたんだけど……なんだか」


 となんでこんな状態になっているかわからず困惑しながらも僕はここに来た理由を伝えた。


「そうか……」


 と真也はなぜか悲しそうな顔で僕、そして今井さんを見た。そんな中、落ち込んでいるような顔をした今井さんが


「今ね。真也くんに告白したの。予定では近藤くんに話をした後にするつもりだったんだけど……部活に遅れてもいいから話を聞くって真也くんが言ってくれたんでしちゃったの。ごめんね」


 とこの状況になった理由を簡単にだが教えてくれた。そういうことかと僕は納得した。頑張って今井さんも告白したんだなって。けれど今井さんの横で只野さんは悲しそうな顔をしていた。この3人の様子を見ると上手く行かなかったんだろうなあと僕は想像した。そんな状況の中、真也は今井さんの言葉に


「春? 夏樹にそんな事言うのか? 」


 少し怒ったようにそう告げた。ああ、そうか。僕は今井さんを好きだった。そんな相手に別の人に告白したなんて言うなんてって怒ってくれたんだろう。


 そう、僕のために。


 けれど怒る必要はない。ちゃんとわかっていたことだから。だから僕は


「真也、いいんだよ。話は聞いてたし、本音を言うと2度目の告白前から今井さんが真也のことが好きだって気づいてたから。それに言っただろ? 僕はもう吹っ切れたって。だから今井さんを怒らないで。というよりも仕方ないだろ? 好きってさ。相手を選ぶことなんてできないんだからさ」


 真也を言い聞かせようと言葉を発した。僕のことで怒るなって。そういう気持ちを込めながら。そんな僕に真也はなんでだ? とでも聞きたそうな顔をしながらも


「はぁ……わかったよ。夏樹がそういうなら俺からはなにもないよ」


 と僕にそう言葉を返してくれたのだった。




 それにしても今井さん。よく泣かなかったなあと僕はちらっと見てしまう。確かに悲しそうな顔をしている。そして泣くのを我慢しているような顔をしている気もする。けれど泣くまでには至っていないようだ。そしてそんな今井さんの横に只野さんは寄り添って僕と真也を今井さんとともに見つめていた。


「なあ? 夏樹は春達と何の話をするんだ? 」


 真也は僕を心配するような様子でそう尋ねてきた。もう、いいか。今井さんも告白してしまったんだしと


「今井さんと只野さん、ふたりとも一緒に過ごそうって真也にも話をしたじゃない? もう今井さんも告白しちゃったし……言うけれど、今井さんは告白したら真也との関係がどうなるかわからないからって悩んでいたんだよ。だからその辺の話を今日はするつもりでここに来たわけだけど……まさかこんな事になってるとは思ってなかったからさ。もうついでだから聞くけどさ。真也、僕は告白の結果は聞いてないからわからない。というか聞かなくて良い。それはふたりだけがわかっていればいいと思うから。ただ、今後、一緒に過ごせる? 今井さんも告白して結果がわかって……今後、一緒に過ごせる? すぐに答えを出さなくてもいいから考えといて。……今日はもう解散しよう? こんな状態じゃ今日はもう話し合いなんてできないでしょ? 」


 僕はふたりに今後みんなと一緒に過ごすことができるか尋ねておいて解散しようと提案した。だってこんな状態じゃ話し合いなんてできないよ。今井さんも今はつらい気持ちを我慢していると思うし早く只野さんとふたりきりにしてあげないとしんどいと思うから。


 けれど僕の言葉にふたりからはなかなか言葉が出てこない。仕方がないので


「ほらほら、解散。さっさと帰るよ。あっ真也は部活か。頑張ってね」


 と僕がなぜか場を仕切り始め、屋上からみんなを追い出したのだった。




 そして今は屋上に僕ひとり。

 ひさしぶりに4人揃ったなあと思うも、またタイミング悪いときに僕も屋上に来たんだなあと思わずため息が出てしまう。それでも3人が揉めることにならなくてよかったなあと思った。だって次回話し合いができるような形で解散することができたのだから。


 でも疲れたよ。はあ……帰りにアキを見て帰るかな。


 なぜかそんな事を考えながら屋上を後にするのだった。


 

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