第54話 なにか違う



 放課後、いつものように元気な声が聞こえてきた。


「なっつきくーーん、おっつかれーー」


 アキの声だ。そして、その声に今日から続いてくることになったのだろう


「近藤くん、お疲れさま」


 という声とともに大和さんも放課後にはやって来た。そんなふたりを見てクラスメイトはえ? 大和さんまた来たの? という感じで僕たちを見ていた。そういえば屋上で話がある今井さんを見てみると只野さんとともに教室から出ていくようだった。多分屋上で待っててくれるのだろう。ただ、只野さんの表情があまりよろしくない気がしたが。


「アキに大和さんお疲れさま。大和さんも放課後は来るんだね」


 僕はふたりに挨拶の後、大和さんへとそう尋ねた。すると


「放課後も私は行くって聞かなくてさ。しょうがないからふたりで来たよ」


 と大和さんではなくアキからそう回答が返ってきた。そんなアキに


「なんでそこまで気にするのかしら? 別に私が横にいるだけでしょ? 」


 と大和さんは告げるのだが


「わかんない。わかんないよーーだ。でもなんかね。まあ気にしないで。言うだけだし。本当に避けたりなんかしないしね」


 とアキは照れ笑いをしながらそんな言葉を大和さんへと返していた。そんなふたりに


「アキは部活動だね。そして……大和さんは生徒会かな? 頑張ってね」


 と僕が言うと、なぜか大和さんは考え込むような態度を取った後


「うーーん。なにか違和感がずっとあると思っていたんだけど……呼び方ね。近藤くん、私も名前で呼んでみて。四季って」


 と大和さんはなぜかそんな事を言ってきた。うーーん。アキ以外を名前呼びかあと思うもとりあえず


「えーーと、四季さん? 」


 と呼んでみる。そんな僕にアキは少しむくれているような顔をしたけれどとりあえず我慢している感じのようだ。そんな僕の言葉に


「うーーん。ちょっと足りない。さんを無くしてみて」


 と呼び捨てで呼んで欲しいと大和さんは言ってきた。呼び捨てかあ。なんだか周りから恨まれそうだと思い


「本当に良いの? 僕、恨まれない? 」


 と大和さんへと尋ねると待ってましたという感じで


「そうそう、四季のファンから夏樹くんが恨まれちゃうよ? 」


 アキが横からそう告げてきた。そんな僕たちに


「なんで呼び方を頼んで近藤くんが恨まれるのよ? ちょっと待ってよ。……そんなことあるの? 」


 と大和さんは困惑した顔でそう僕たちに尋ねてきた。はっきり言うと僕はよくわからない。ただ、モテると聞いていたし、周りからの視線等も痛くてそういうこともあるんじゃないかと思って尋ねただけで。けれど、やはりありそうな気配はあるのかなあとアキの言葉でそう思った。


「そりゃあるよ。四季モテるんだから。告白だっていっぱいされてるでしょ? 」


 とアキが大和さんへそう答えると


「そんな……呼んでもらうのにそこまで気を使わないといけないなんて面倒だわね。それよりもアキだってモテるでしょうに。それなのになんで? 」


 大和さんはアキに向かってそう尋ねた。確かにアキの時も最初は視線は痛かったなあと思う。教室でも部活動中でも僕を見つければ大きな声で名前を呼ぶし……あれ? なんか違う。僕がアキを名前で呼ぶことよりもアキが僕の名前を呼ぶことのほうが目立ってたんじゃないか。そう思うと僕は


「アキの場合は僕が名前を呼ぶことよりもアキが僕の名前を呼ぶことの方が目立っていたからだと思う。僕がアキを名前で呼ぶことが気にならないくらいに」


 と大和さんへと告げるとアキは


「確かにそうかも。私、部活動中でも夏樹くん見つけたら呼んでるしね。この頃は周りもまたかって感じで気にしなくなってるよ? 」


 とアキも納得したようにそう大和さんへと告げていた。


「そういうことね。ふぅ……私はアキみたいに大声で叫べないから……さんづけでいいわ。名前で呼んでもらったほうが違和感なかったから」


 となぜか名前呼びは決まっているようでそんなことを僕へと伝えてきた。もう名字でいいじゃないと僕は思うのだが。けれどどうも決まってしまったようだ。仕方がないので


「はあ、わかったよ。四季さん。これでいい? 」


 と僕は了承し名前で呼ぶのだった。




 そんな僕にアキは


「そうそう、明日多分話があるから」


 とアキが珍しく事前にそんな事を言ってきた。なんだろう? 大切な話? 僕がそんな事を考えていると、アキはあまり良い顔をせず


「夏樹くんになにかあるわけじゃないよ。約束を守るだけ。そういうことよ」


 とアキは考え込んでいた僕にそう伝えてきた。約束かあ。話すって何でも伝え合うってことだったよなあ。なんだろう? まだいまいちピンとこない僕に


「ふふふっ。本当に鈍いのね、近藤くんは」


 と四季さんはアキの話がなにか知っているようで考え込む僕を見ながらそう言って微笑んでいた。すると


「ふふふっ。そんな夏樹くんだからいいんじゃない! 」


 と胸を張ってなぜか偉そうに語るアキがその横に出来上がっていた。




 はぁ、よくわかんないや。とりあえず明日まで待とう……今は今井さんとのことを気にかけなきゃとそう思い、アキと大和さんのふたりと別れて屋上へと向かうのだった。

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