第48話 はやくきなさいよ



 そんな怖い目をした子と言われた只野さんは大和さんが気付くのを見計らかったかのように今井さんになにか呟いてから僕らに近づいてきた。そして


「近藤くん、おはよう」


 と僕に挨拶をしてきた。いや……怖い。いやわかるけどさ。告白した相手にまた女の人が現れたんだから。はぁ……なんだか浮気が見つかった彼氏みたいだよ。そんなことを思いながらも


「只野さん、おはよう」


 と僕は困惑しながら挨拶を返す。すると


「只野さんって言うのね。おはようございます。私、大和 四季。よろしくね」


 と大和さんはなんて事のないような態度でそう只野さんへと挨拶をする。すると


「……只野 冬美です。よろしくおねがいします」


 仕方ないと言う感じながらも只野さんはふくれっ面のままそう大和さんへと挨拶をした。そして


「近藤くん、なんで大和さんがここにいるの? それにいきなり机の上に座っちゃって……失礼よ」


 すぐさま大和さんがここにいる理由を僕に尋ねてきた。そりゃなんでいるか気になるよなあ。それに語尾は小さい言葉で聞き取りにくかったがどうも机の上に座って僕と話していたのが気に入らないという感じのようで。だからか大和さんは机の上から降りて


「ごめんなさいね、近藤くん。机の上に座ったりして。失礼だとは思ったんだけどこうしたら彼女が来ると思ってね。まあ、もし来ないようだったら気にするにも値しない人かなと思ったから」


 と只野さんを試したようなことを言い出した。……なにしてんの? 大和さん。それを聞いた只野さんは憮然とした顔つきをしていた。そりゃそうだよな。ふざけすぎてるし、まさか試されてるなんて思っていなかっただろう。


「大和さん、それどういうことですか? 」


 只野さんは納得行かないという感じで大和さんにそう尋ねる。すると


「うーん。あのね。私アキの友人なの。アキって今いつもこのクラスに来て近藤くんと一緒に居ると思う千葉 アキね。それでね、今日からだけどアキと一緒にこのクラスにお邪魔することになるのよ。そうそう、よろしくね。だからアキのライバルっていう子を見ておきたかったというのと……まあ見るだけならこんなことしなくていいよね。もうひとつ、こっちが本命。近藤くんに何かあったら出てくるかどうか……そういう子じゃないなら別に気にすることもないでしょうし。それくらいの気持ちならアキだけで十分だからね。まあそういうこと。アキのライバルがライバルらしいかどうか見たかってことね。嫌な気分になったかもしれないけれど……」


 と大和さんは只野さんにそう告げた。それを聞いた只野さんは何か言おうとする素振りを見せるがその前に


「只野さん、ごめんなさいね。試すようなことをして。でもね、これをしたのは言いたかったことがあったからなのよ」


 と大和さんは只野さんに告げる。どうも大和さんは只野さんに何か言いたい事があったようでこんなことをしたらしい。だから只野さんは


「……言いたい事って何かしら? 」


 と大和さんへ仏頂面のまま言いたい何かを尋ねた。


「私が聞いていたのは近藤くんの側には島田くん、そしてアキが今いて。あとふたりは後からやってくるって聞いてたの。ふたりについてはどんな人かはアキから聞いてたわ。ただ顔はわからなかったけれどね。でもそれはまだ決まっていないって話で……だからね、はっきり言うわ。なにしてるの? はやくこっちにいらっしゃい。夏樹くんのこと好きなんでしょ? なんで離れているかわからないわ。アキがライバルだからって、苦手だからって遠くにいたらアキが楽に勝っちゃうわよ? 私、アキの応援はしているけどね。これから一緒に過ごす仲間になる人、只野さんあなたの事ね。その人を考えずに一緒に過ごそうなんて思ってないわよ? アキと戦いなさいな」


 その答えに大和さんは僕も考えていなかったことを言い出した。驚いた。そこまで周りを考えているとは。確かにアキが友人で大切だけれどこれから一緒に過ごす人のことも考えていたんだって。大和さん、最初は失礼な態度を取る人だなあと思ったけれど……それも考えだったってことか。まあ、別のやり方もあったんじゃないかって僕は思うけれどね。


 その言葉に只野さんはまさかそんな言葉を返されるとは考えていなかったようで驚愕した顔になる。そんな只野さんに


「早く来なさいよ、近藤くんの側へ。アキのことより近藤くんでしょ? 確かにライバルかもしれないけれどアキとはいがみ合う必要なんてないでしょ? するべきことは近藤くんへのアプローチ! うん、はやくみんなで過ごしましょう」


 そう言って只野さんへと微笑みかける大和さん。うーん、こういうところが生徒会副会長になれた理由かもしれない。ちょっと変わってるところがある人かもしれないけれど。


 僕は話の中心であるにも関わらず会話では蚊帳の外にいるそんな状態でそんな事を考えながらふたりの会話を黙って聞いていたのだった。




 けれど最後に大和さんはわけのわからないことを付け加える。


「もしかすると只野さんがなかなか来なかったら、ライバルがひとりからふたりになるかもよ? 」


 と只野さんをけしかけるようなことをぽつりと伝えたのだった。大和さん……あなたは何がしたいんでしょうか? 



 

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