第44話 振り返りと出会い



 僕が走ってやってきた場所、それは学校。普段授業で体を動かすくらいしか運動をしない僕にはただ学校まで走ってくるだけでも結構な体力を使っていた。そんな僕だから着けば直ぐに校門の側あたりで座り込んでしまう。そして息苦しさを抑えようと息を整えるため深呼吸をしなければならなかった。


 深呼吸を繰り返しやっとのことで落ち着くと僕は校庭を見渡した。そこには部活動に励む生徒たちが多くいた。スマホで時間を確認するとまだ17時半。部活動が何時に終わるか僕は知らないけれどまだ部活動は続くのだろう。

 そして僕はここまで来て見たかったものがある方向を見やる。するとそこには練習をしているテニス部がいて、その中にアキ。駆けては汗を流してラケットを振るそんな姿が見受けられた。そんなアキを見つけられたことで僕の心にホッとする気持ちが溢れてきたことを実感する。


 そう僕はアキが見たかったんだ。会いたかったんだ。無性に。


 けれどアキを見られたことは良かったのだが、よくよく考えてみると男子が女子テニス部をずっと眺めているなんてまずいのではと今になって気付いてしまう。


 困ったなと色々と考える僕。


 けれどいくら考えても特に思いつくことなんて無く僕は仕方なく終わるまで校門の側で待っていようと考えた。


 けれど……今までは僕からアキを求めることなんてしなかった。そのせいか今更だけれど僕が待っていても問題ないのだろうかと不安になる僕。だってアキにも用事があるかもしれないわけで。


 そう、アキと約束などしてはいないのだから。




 それでも帰るという選択肢は取らず僕は校門横で壁に寄りかかりぼーっとしてアキを待つ時間を過ごしていた。ただし、テニス部から見えない場所で。眺めているのも怪しい人と思われるし、アキに見つかると部活動の邪魔になることもあるんじゃないかと思って。




 そんな時間の中、先程までの出来事を思い出す。そう、今井さんとの会話。


 無事に話し合いができてよかった。伝えればわかり合えるんだって思った。そして、今後についても提案することができてよかったと。

 そう、僕たちの崩れていた関係も少しずつ修復できるんだと僕は嬉しく思った。形が変わりながらであっても。


 そう、僕自身も変わっているんだから。この前まで今井さんが好きだったはずなのに真也を好きな今井さんを応援しているのだから。それなのに周りが変わらないことなんてないのだから。


 そして、一番変わったと思うのは……僕だと思う。それはアキを望む僕が居るということ。


 まさか学校まで走って会いたくなるとは思っていなかった。そこまでアキを望むのはなんでだろう? 安心? 信頼? 自分でもいまいちわからない。でも会いたい気持ちに嘘はない。だからここに来たのだから。ここで待っているのだから。 


 けれど、今井さんに振られてからまだ日にちも浅く振られたというショックもあるからなのか……昔の僕ならアキに感じている感情は恋愛感情の一部かもと考えたかもしれないけれど、今の僕には恋愛感情というものがよくわからなくなっていた。


 ただ、言えるのは慌てても自分を見失うし只野さんからも告白を受けているんだって。もうひとりよがりになっては駄目だと。周りをそして自分自身をしっかりと理解して気持ちを確かめないと駄目なんだとそんなことを僕は考えつつ思いにふけっていたのだった。




 そんな中掛けられる声。


「あら? こんなところで何をしてるんです? 」


 そう言って不思議そうな顔で声をかけてきた彼女。僕はその彼女を確認する。ああ、見たことのある人だった。彼女が生徒会副会長の人だと気付く。でも、なぜ声をかけてきた? 一応僕はここの生徒だけれど不審者に見えたのかな? 僕も不思議に思いながらも


「えーと、人を待っているんですが」


 と彼女に返事をする。すると


「もしかしてアキを待ってるの? だったら私も待っているから一緒に待ちましょうか? 」


 その女性もアキを待っていると僕に告げてきた。そして一緒に待とうと。うん? この人は僕のこと知ってるの? と困惑した顔をしていると


「ああ、そう言えばこうやって話すのは初めてでしたね。私はアキと同じクラスの大和 四季やまと しき。アキの友人よ。いつも一緒に帰っているの。よろしくね」 


 僕の様子に気付いたのか彼女は自己紹介をしてきた。そして気付く。ああ、彼女がアキの友人なのかと。そう言えば真也が言ってたな。顔くらい知ってるはずだって。そりゃ見たことあるやと僕はそう思いながらも


「近藤 夏樹です。よろしく」


 と自己紹介を返したのだった。

 

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