第42話 今井さんの告白



 今井さんからの話も終わったようで一息つこうとみんな飲み物を追加注文することにした。僕と今井さんは緊張のあまりかコップは空っぽになっていた。でも過去で終わりじゃない。今までの思いを打ち明けたからには僕らの今後のことも話さないといけないから。


 まだ話すことはあるんだから。


 みんな最初と同じものをおかわりで注文する。

 僕たちは会話で疲れた心を癒やすかのようにただ静かに注文が来るまで待っていた。そう、僕と今井さんだけでなく只野さんも話をしていないにもかかわらず僕たちを心配してか聞いているだけで疲れているようだった。只野さんも大変だよね、見守るのも神経を使うものだと思うから。でも、とりあえずここまでは上手く行っているのではないかと僕は思っている。今井さんも今までのように突っかかってくる様な事もないのだから。


 注文が届くと、今井さんがまず口を開いて尋ねてきた。


「えっと……こんな事聞いていいのかわからないけど、これからのことを考えるとどうしても聞いておきたいことがあって……近藤くん、聞いてもいい? 」


 その言葉に何を尋ねられるのか少し心配にはなるけれど、今後のことに繋がることなら聞かないわけには行かないと


「うん。話せるかどうかは聞いてみないとわからないけど……なに? 」


 僕は緊張しながらも今井さんに話をするよう促した。


「えっと……近藤くんは私のことどう思ってる? 私のことまだ好きとか……意地悪なこと言った私だからそんな事はもうないとは思うんだけど聞いておかないといけないと思って」


 今井さんは気まずそうにそう尋ねてきた。確かに僕がどう思っているのか……真也、只野さんとの関係において確認しておきたい事かもしれないと僕も理解できた質問だった。だからあまり話したいことではないけれど素直に伝えることにする。


「今井さんのことだけど……好きかというとごめん、よくわからない。ただね、恋愛感情としての諦めはもうついてるよ。振られた時に今井さんへの気持ちが壊れたなんて思ったけれど実際そうじゃなかったみたいだった。でもね、アキの前で泣いた時スッキリとすることができた。うん、その時に多分諦めが完全にできたと思う。だからもう恋愛として終わったと思ってる。でも嫌いになったとかそういうことじゃないんだ。だから好きかと聞かれてもよくわからないって言うのが本音。そうそう、今井さんが真也に思いを寄せているって聞いても大丈夫ってのはあるよ。嫉妬しないし応援できる自信はあるかな? 」


 僕は解答になるかわからないが素直に思っていることを告げる。今井さんへの恋愛感情としては僕自身もう終わっていると思っている。ただ、好きって色々あるわけで。今井さんの事を嫌いにはなっていないのだから、もしかすると友達としての好きという気持ちは残っているのかもしれないなんて思う僕が居る。だからこんな答えしか言えなかった。


「そう。じゃここで近藤くんにも伝えておくね。私、真也くんに告白しようと思っているんだ。たとえ振られようとも。ふふふっ。でもね、振られても多分諦められないと思うから冬みたいになってるかなあなんて思ったりしてる」


 とここで名前を出された只野さんは困惑した顔をして今井さんに声をかける。


「ちょっと、なんでここで私が出てくるのよ? 」


 その声に今井さんは即答で


「だって冬、返事もらわなくて頑張っているんでしょ? 私は返事もらうけどさ。1回告白しただけで諦めようなんて思っていないし。諦めずに頑張るんだ。ただ、真也くんや周りに迷惑にならないようにはするよ? 」


 そう只野さんに言葉を返していた。少し笑顔を浮かべながら。その顔を見た只野さんは困ったように……


「はぁ……確かに私、諦めてないからなあ。って簡単に諦められるはずないじゃない。やっと春から離れたのに……まあ今はもっと強敵が現れたわけだけどさ」


 ちょっと残念そうにそう言った。只野さんが言う強敵はアキだろうなあ。確かに今の僕はまず誰を一番に見るかと言えば……やっぱりアキだと自分でも思うのだから。


「ふふふっ冬ごめんね。この事は近藤くんに話しておかないと駄目かなって思って。ほんと私が弱いせいで今まで近藤くんのせいにばかりしちゃって……。そして、こうやって私の気持ちを伝えなかったから……私が動かなかったから駄目だったんだって思うから。だからちゃんと近藤くんの今の気持ちを確認して……まずは真也くんにきちんと告白してからやり直そうと思って。……近藤くん。あなたの気持ちに答えられなくてごめんなさい。真也くんが好きだから。どうしても無理なの。本当にごめんなさい」


 あれから時は経ったけれど振られた言葉よりも気持ちのこもった言葉を今井さんから貰うことができた僕。その言葉を聞いて僕はあの時の気持ちとは全然違い、清々しいと言ったらいいのかすっきりした気持ちで受け入れることができたのだった。だから


「うん。いろいろとあったけれどさ。僕、今井さんを好きになってよかったと思う。今井さん今までありがとう。あっなんか別れみたいな言葉になっちゃった。そうじゃなくてこれからも友達としてよろしくね」


 僕は今井さんに微笑みながらそう言葉を返すのだった。

 




 

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