第37話 まだ、好き?



 あれからふたりと別れた後、いつものようにアキがやってきて僕は挨拶を交わす。するとアキは昨日僕が転んだことを気にかけていたようで僕の身体をペタペタと触って怪我がないことを確認すると安心して自分の教室へと戻っていった。

 それを見た真也は僕が転んだことを知っていたせいかアキの行動を見て横で笑っていた。ただ、只野さんが「何をしてるの! 」と言いたげにこちらを見ていたのがちょっと怖かったが。




 さて、ホームルームも終わり1日の授業が始まる。僕はぼーっと考え事をしながら授業を受けていた。今井さんと話を終えた後に気づいたことがあったから。なんでこんな事していたんだろうと。それだったらこうすればいいんじゃ? とあることを思いついてしまう。もっと早く気付けよとも思った。ほんと僕って馬鹿だよ。そんな考えが浮かんだ拍子に僕は授業中にも関わらず


「あっ」


 と無意識に声を上げてしまう。うん、すごく恥ずかしい。クラスのみんなも僕の方を見ていた。そして


「近藤くん。なにかあったの? 」


 と先生に問いかけられてしまう。理由なんて言えない僕は


「いえ。なにもありません。すいませんでした」


 と謝るしかなかった。そんな困っている僕に先生も呆れたように


「なにもないなら授業に集中してね。はい、みんな。授業を再開しますよ? 」


 と言って先生は授業を再開してくれたのだった。ああ、恥ずかしい。




 昼休みになるとバタバタと慌てたようにアキが僕の教室へとやってきた。


「なっつきくーーん、一緒に食べよう」


といつもの元気なアキで僕に声をかけてくる。そして近くの机を僕の机に近づけて席へと座り弁当を広げた。僕も向かいで弁当を同じように広げる。


「さて、昨日何があったか食べながら聞かせてくれる? 」


 準備がお互い済むとアキは即座にそう僕に尋ねてきた。そんなに聞きたかったのかなと僕は笑ってしまう。


「うんうん。ちゃんと話すよ。それに相談したいこともあったからね」


 そう僕はアキに授業中思いついたことを相談するつもりだった。ひとりでは決められないと思っていたから。アキは僕の側に居るのだから。


 それから僕はアキに昨日今井さんに呼び出しを受けたこと、そのことで今井さんと只野さんがうまく仲直りできたこと。そして今日の朝今井さんと会話をして今度ゆっくりと話をすることにしたことを説明した。




「夏樹くん。なんだか昨日もいろいろとあったみたいだね。でも辛そうな様子もないし今井さんとも仲直りできそうな感じなんだなあ。よかったね」


 とアキは僕の話を聞いて喜んでくれているようだった。そんなアキに


「それでひとつ相談があったんだ。真也がこっちに来たいっていって揉めてたでしょ? それなんだけど今井さんは真也をもう止めないって言っててね。向こうでの話し合いが終わったらこっちに真也が来ることになるってことなんだけどさ」


 僕は弁当を一口含み咀嚼して飲み込むと


「よくよく考えたらさ。今井さんと僕の間に問題がなかったらふたつに別れる必要なんてないんだよね。僕が抜けたのも僕と今井さんとの気まずさでみんなに迷惑を掛けると思っていたからなんだ。そうなると今井さんときちんと話し合えばもう別れておく必要なんて無くて。だから、きちんと今井さんと話が済んだらもうくっついてもいいかなって。アキはどう思う? 」


 と僕は考えていたことを話してアキに尋ねてみた。すると


「え? ということは私いらない子? 」


 アキは悲しそうな顔で僕を見つめながらそう尋ねてきた。あっそうだ。アキは僕がひとりにならないために一緒に居てくれたわけで、その理由がなくなったら僕の側には居られないと思ったのか。駄目だ。本当に僕は考えが浅はかだった。


「アキ。そんな事ないから。もしそうならアキに相談しないよ? 僕はアキが側に居てくれるものだと勝手に思っていた。気が付かなくてごめん。アキには側にいて欲しいと思ってるから」


 僕はアキに優しくそう告げると、悲しそうだった顔にぱっと笑顔が戻り


「はぁ……よかった。もう来なくていいよって言われるのかと思った……」


 とアキは安心したようにそう僕に答えてくれた。


「本当にごめん。言葉が足らなかったね」


 そんなアキに僕は謝るしかなかった。本当に馬鹿だよ、僕は。




 僕が反省してるとアキはなにか考え事をしているようで珍しく黙っていた。そして考え事が終わったのか急に


「一つだけ聞いてもいい? 」


 と僕に尋ねてきた。


「うん、なに? 」


 僕が聞き返すと、アキは一言


「まだ今井さんのこと好き? 」


 と尋ねてきた。昔なら多分びっくりして慌てふためいていたと思う。でもなぜかそういうのは全く無くアキの問いに答えていた。


「今井さんに対して昔みたいな恋愛感情はないかな? ここ最近いろいろあったこともそうなった要因はあるかな? ただ、多少の好感情は残っていると思うよ? でも付き合いたいとかそういうのはもうない。というよりさ。僕は今井さんのこと好きって気持ちだけでアピールばかりして今井さんの気持ちろくに考えていなかったんだってほんと思った。そのせいで今井さんを傷つけていたんだなって。恋愛って好きって気持ちだけじゃ駄目なんだなって……ちゃんと相手を思いやって言葉を伝えて気持ちも拾い上げていかないとって。振られちゃったけど勉強させてもらった感じだなあ。うん。だからアキの返事への答えは恋愛では好きじゃないだね」


 と僕がそう答えるとアキはニコニコしながら


「それならいいよ。そこだけが不安だったからね」


 僕がまだ今井さんに惹かれているかもと心配していたのだろうか? そんな可愛らしいことを言うアキに


「はははっアキ可愛いなあ」


 と思わず言ってしまう。それを聞いたアキは顔がぼっと一気に赤くなってしまった。あれ? 僕に言われても今まで赤くならなかったのにと思っていると


「そんな急に言うなんて卑怯よ」


 と照れ隠しなのかそっぽを向いて僕に告げてきたのだった。

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