第36話 朝の挨拶
翌朝、僕はいつもどおりに学校へと登校し、現在自分の席に居た。
昨日はさすがアキというべきだろうかいつもの直感で僕の不自然な様子に気付いたらしく家まで送ると言い出した。けれど僕は「明日話すよ」と伝えて説得しなんとか部活動へと戻ってもらった。僕のせいでまた部活動を休んでほしくないとも伝えて。
それに別に昨日落ち込んだとかそういうことはなかったわけで。ただ、無意識に緊張していただけなのだから。
そう言えばと僕は自分の席に座ったままふたりの様子が気になりそちらをチラチラと覗き見る。昨日は別々に過ごしていたふたりだったが今日は一緒に並んでいた。そんなふたりを見てあれから仲直りできたんだなあと僕は安心するのだった。
ふたりを見て安心した僕はしばらくぼーっと時間をしていると、いきなり後ろから声がかけられる。まだアキは来ないよなと思いながらそちらを振り向いてみると
「近藤くんおはよう。昨日はありがとう」
と素直に僕に声をかけてくる只野さんともうひとり……が僕の方へとやってきていた。
「只野さんおはよう。って問題なく僕に声かけられてるね。よかったよ……そして今井さんおはよう」
僕は声をかけてきた只野さんと一緒にやってきた今井さんに挨拶をする。
「そりゃ昨日よりましだし、もう近藤くんに気持ち伝えちゃったしね。今更つんつんする必要ない……でしょ? 」
只野さんはちょっとむすっとした顔に変えてそう言ってきた。
そして只野さんとともにやってきた今井さん。けれど只野さんの少し後ろに隠れるように立っていて。僕に対して文句を言ったことを気にしているのだろうか? 只野さんはそんな今井さんの後ろに行き今井さんを僕の方へと押しやってくる。そして
「春、昨日ちゃんと約束したでしょ? 」
と今井さんに小声で伝えていた。まあ僕にも聞こえはしていたんだけどね。そう言われた今井さんは緊張したような顔で僕を見つめた後
「近藤くん、おはよう。そしてごめんなさい」
と言って頭を下げてきた。いやいや……みんな見てるから頭を下げるのは止めて。
「今井さん、ごめん。頭を上げて。みんな見ているから」
僕が慌ててそう言うと、今井さんは頭を上げて
「あっごめんなさい」
と一言こぼすのだった。
「昨日、冬と仲直りしました。本当に近藤くんにはひどいこと言ってごめんなさい。だいっきらいなんて言ってしまったけれど、あれは……」
今井さんは僕に理由を説明してくれようとしたけれど
「はいはい。春、それは今度近藤くんとゆっくり話す時に話そ。時間がない今慌てても話しても仕方ないでしょ? 近藤くんもそれでいい? 」
只野さんが手をパンパンと鳴らした後そう僕たちに言ってきた。
「うん。ゆっくり時間がある時に聞くよ。ちゃんと話さないとね。僕もきちんと聞くし、話すから」
僕もそう告げると
「うん、わかった。今度きちんと話をしましょうね」
と今井さんは少しだけ緊張が取れたような顔で微笑んでいた。
「近藤くん、直ぐじゃなくてごめんね。ただ春もまだ落ち着いたかと言うとそうでもなくて。落ち着いてからきちんと話をさせるから。その時は私も同席させてもらうね」
なんだか今井さん、只野さんに仕切られてるなと少しおかしくなった僕。そんな僕を見て不審に思ったのか
「近藤くん。なにか変なこと考えてない? 」
と只野さんは僕に詰め寄ってきた。だから僕は
「いや、只野さんが今井さんを仕切ってるなあって。少しおかしくなっちゃった」
と少し笑いながらそう言うと、只野さんは頭をかきながら
「ふふふ。確かに私が仕切っちゃってたね」
困った顔をしながらも僕に笑顔を返してくれた。怒りもなく。そんな会話をしていると、急に今井さんが僕の方を向き
「近藤くん。あのね、真也くんはそちらに行ってもらうことにしたから」
と勢いよく伝えてきた。それを聞いた僕は驚き今井さんを見る。そして
「それでいいの? 」
と気になって尋ねた。好きな人が離れる、これもひとつの原因だったんじゃないかと思っていたから。けれどその問いに今井さんは
「うん。離れたくはないけれど、今はまず冬だと思って。私がおかしくなったのって真也くんのこともあるけれど一番は冬のことだった。冬が居なくなるって考えてから極端におかしくなったと思うの。だからまずは冬とゆっくり話をして……それから考えることにしたんだ。真也くんを私の我儘で縛り付けちゃ駄目って冬にも怒られたしね。だからとりあえずは。ただ、諦めてはいないよ。今度はちゃんと動くから」
そう言って僕に笑顔で伝えてくれた。その笑顔はなんというか少しすっきりしているようだった。本当にそう考えているのだろうと僕もそれを見て納得する。
「わかったよ。ただ、ちゃんと今井さんと真也が話をしてからね。揉めて別れるのは嫌だからさ」
だから僕は今井さんにそう伝える。その言葉に今井さんはこう返してきた。
「もう揉めないよ。ただ、近藤くん頑張ってね。千葉さんに冬のこともあるし……それに」
それを聞いた僕は
「それに? 」
と問い返すと
「ううん。なんでもない。頑張って」
と今井さんは結局は言葉を濁してしまうのだった。僕に気になる言葉を残して。
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