第35話 アキの大きさ
僕は階段を降り校庭へと向かう。そこはいつものように部活動で賑わっていた。僕はテニスコートを見てアキを探す。今まで思っていなかったけれど、アキは女子テニス部の中でも目立っているように僕には見えた。アキにそんな事を言うと今頃気付いたの? と言ってきそう……。そんな僕をよそにラケットで相手へとボールを打ち返していたアキ。
そんなアキを見て上手だなあと感心してしばらくぼーっと眺めていた僕。
活動中だからか今日は僕にも気付かないようでアキの叫び声は響かない。まあ、毎日部活動中に抜け出しては支障が出るし、僕もたまらないと見つからないうちに校門へ向かおうとしたけれど慌てたせいなのか
ボテッ
足がもつれて転んでしまう。
はっ恥ずかしい。そう思いながら起きようとするけれど体が動かなくてうまく起きれない。仕方がないのでとりあえず上半身だけなんとか起き上がるとあぐらをかき、怪我がないことを確認する。怪我は特にしてないようだ。
僕は「はぁ」とため息をつき空を見上げる。動かそうとすると感じる違和感。どうも身体が緊張しているような感じがした。今まで気付かなかったけれど、今井さんの呼び出しで緊張していたのかなと僕は考える。ふぅ……向かい合って話しても、もう大丈夫だと思ってたけどそうでもなかったようだなあ。大して話してないのにな。
僕は転んだことで汚れた制服の汚れを叩く。そんな僕を見てか誰からかはわからないが「くすくす」と笑い声が辺りから聞こえてきた。その声で僕は忘れていた恥ずかしさがこみ上げてくる。
けれどすぐには立ち上がりたくない心境で、さてどうするかと考えていると
「夏樹くん、大丈夫? 」
と慌ててアキが駆け寄ってくる。心配そうな顔をして。その後から真也まで心配そうに駆け寄ってきた。はぁ流石に転んだら目立つよな……
「夏樹、大丈夫か? 」
そして真也にまで心配されてしまう僕。これ恥ずかしすぎる……そう思いながら
「ああ、大丈夫。今日はアキに見つからずに帰れるかと思ったら、慌てたせいか転んだだけだよ。怪我もないしね」
とふたりに笑ってそう伝える。それを見た真也は少し安心した顔を見せた後
「はぁ……ならいいけどな。っとなんか呼ばれているみたいだから俺は戻るな。千葉さん、後はよろしく」
僕にそう言って戻っていこうとする。真也はまだここに居たそうにしていたけれど、男子テニスの仲間から「島田ーー」と呼ばれる声が聞こえていたからね。だから
「真也ありがとね」
僕は慌てて戻ろうとする真也にそう声をかける。それに対して真也は手を上げて合図を僕に送りテニスコートへと戻っていった。
僕はアキにも練習があるだろうと
「アキも戻っていいよ。怪我もないし、あったのは転んだところを見られた笑いだけだから。ちょっと恥ずかしかったけどね」
照れ笑いをしながらアキに戻るように伝える。そんな僕にアキは
「うーん。もう少し居るから。放って戻れないよ? 選ぶなら部活動より夏樹くんだよ? それより道の真ん中じゃなくてよかったね」
心配の言葉とともに少し困惑した顔でそう言ってきた。確かに都合の良い場所で転んだものだ。校門へと続く道を歩いてはいたが、アキに見つからないようにしていたため中央を歩いていたわけではない。そのためか通行の邪魔にならない場所で僕は転んでいた。まあそこで今は座り込んでいるわけだけど。
「夏樹くん? 私を避けないでよ? それで怪我されたら嫌だし。ううん、避けられるのも嫌なんだから。まあ、夏樹くんが避けた理由は何となく分かるけど……仕方ないじゃない。勝手に動いちゃうんだから」
アキは心配しながらも僕にそう文句を言ってくる。うん、確かに避けられるのは嫌だろうなあ。でも勝手に動くって何? とりあえず僕は
「流石に何度も抜け出しちゃ駄目でしょ? 部活動の人達に迷惑がかかっちゃうから……でも、アキと会いたくないとか思っていないし」
アキに部活を抜け出すのは良くないことだとそう伝えたわけなんだけど
「だって、だって……見つけたら会いたくなるのは仕方ないでしょ? だから夏樹くん、諦めて」
それに対してアキは当たり前でしょ? と言いたそうな顔へと変え僕に宣言するように言うのだった。
そんな会話の中、僕はアキと話していると身体の緊張が少しずつ取れていくように感じていた。これならそのうち動けるなあ……。アキと居ると本当に落ち着くなあと思う。アキに頼りっぱなしで申し訳ないけれど会えて良かったなあ。そんな事を思った僕は
「はははっアキ様々だなあ。避けようとしたけれど……アキと会えて良かったな」
思わずポツリと言ってしまう。それを目ざとく聞いていたアキ。心配そうだった顔があっという間に笑顔に変わる。そして
「え? 私と会えて良かった? ふふふ。さっきは避けたのに。ほんとにもう……嬉しいこと言ってくれるね、夏樹くん」
そう言って笑う笑顔のアキ。部活を抜け出すなと言いながらも会えてよかったと思う僕は勝手だな。そう思いながらもアキを見たことで僕の心は完全にいつもの僕に戻れたように感じたのだった。
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