第34話 只野さんの行動



 泣き出す今井さんに僕は困ってしまう。

 結局僕は今井さんを困らせるだけの存在だったのか? 


 僕も最初は真也にグループに残ってもらうつもりだった。でもこれは僕の考え。真也本人はそうではなく僕らと居たいと選択したんだ。それなのにグループに残れと真也が望まないことを僕が押し付けることなんて出来なかった。

 只野さんにしても僕がグループから離脱してからの、ぎこちなくなっていた関係を元に戻しただけのはず。


 それでも今井さんにはそうじゃないんだよな。


 みんなの関係を壊したいわけじゃないんだ。僕は。

 最初は告白からの気まずさでみんなの邪魔になると思ったから離れただけだったのに。今井さんに迷惑をかけたくなかったからなのに。なんでその結果が、一番苦しんでいるのが今井さんになってしまうんだと僕は悲しくなってしまう。


 どんなに嫌悪の言葉を向けられようと好きになった人をたった数日で嫌いになんて僕はなれない。だから僕はなにか助けにならないか、伝えられないか一生懸命考える。




 そんな会話の無くなったふたりの間にコツコツと静かに歩いてくる人。その人は今井さんの前まで行き、そして


パチン


 腕を振りかぶって今井さんの頬を叩いていた。

 



 今井さんの頬を叩いたのは只野さん。まさか只野さんがそんな事をするとは思っていなかった僕は唖然とそれを見ていただけだった。そして今井さんも叩かれたことで驚いたのか涙を止め、ただ只野さんを見つめていた。




「近藤くんの悪口を春が言ったときも私は言ったよね? なんでも人のせいにするんじゃないって。今の現状になったのは近藤くんのせいだけじゃない。みんなが関係あるんだよ? あなたも関係あるの。近藤くんを振ったの誰? あなたが好きになった人は誰? あなたがいなかったらこんなことにならなかったことだってあるのよ? 私がいなくても変わることもある。真也くんだってね。だからそんなこと言っても仕方ないの。私達一緒に居たのよ? 仲良く一緒に居たんじゃないの? 」


 只野さんは今井さんに怒っているようだった。只野さんの言葉に唖然とする今井さん。けれど一息ついた後更に只野さんは言葉を重ねる。


「それにね、あなたは何をしたの? 何もしてないじゃない。ただ真也くんが私達から離れるって言った時にただ泣いて駄目って叫んだだけ。春。あなたは悲劇のヒロインじゃないのよ? 自分は何もしていないじゃないの。何もしていないなんだよ? いい加減に分かりなさい」


 そう言い終えた後、只野さんは髪をかきあげ……


「私だって泣いたわよ。近藤くんが離れていくと思ったら泣けちゃったわよ。近藤くんの気持ちわかっていたから何も言えなかったわよ。けれどね。人のせいにするつもりなんて無いわよ。春がいなかったらなんて考えたくもないよ? 私は春の友達だと思ってるから」


 そう告げた後、只野さんは今井さんを抱きしめる。


「人のせいにばっかりしないで。私も遅かったけどさ。ちゃんと話しなさい。ちゃんと分かりあいなさい。近藤くんに全部を押し付けてちゃ駄目よ。あなたにもきっとなにかあるの。私も居るからちゃんと考えよう。それと……私は春の側にいるから奪われたなんて考えないで。確かに近藤くんと話したりするわよ? だって好きなんだから。けれどあなたを放っては行かないから……ね」


 抱きしめたまま只野さんは今井さんにそう伝えていた。そしてそれを聞いた今井さんも止まった涙がまた流れ落ち、只野さんの胸で泣き叫んだのだった。




 それを離れてみていた僕。ほんと僕は何も出来なかったなと思うも、とりあえずふたりは仲直りできるんじゃないかなあと少しうれしく感じながらこの光景を見ていた。そして今の状態じゃ僕との会話を続けるより、仲直りするかもしれないふたりで時間を過ごすほうがいいだろうと僕は思い


「只野さん、今井さん。僕は今日は帰るよ。多分今は僕なんかよりふたりで話し合うことのほうが大切だと思うから。はははっ。僕は何も出来なかったけど……ううん、それで良かったのかも。ふたり仲良く話し合ってね。それとなにかあったらまた声かけてきて。僕が話せることは全部話すからさ」


 そうふたりに伝えて屋上から去ろうとした。そんな僕の後ろ姿に言葉がかけられる。


「近藤くん、ありがとう。今から春とゆっくり話すわ。ちゃんと話を聞いてくれると思うから」




 そう僕は只野さんからの言葉を受け取るとふたりが仲直りすることを願いながら帰路についたのだった。

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