第38話 アキの友達


 

 真也はアキに伝えた翌日には僕たちへと合流してきた。「話はついたから」と告げて。

 ただ、真也はアキからひとつだけ注文を受ける。真也へ「こっちに来ても向こうとも交流はしなさいよ? 別に喧嘩別れじゃないんだから」と。確かにそうだ。昨日アキに伝えたように別れる必要なんてもう今さらなのだから。


 僕と今井さんの話が終われば僕はふたりに伝えようとも思っている。「もう僕たちがふたつに別れる必要はないんじゃない、一緒に過ごしていいんじゃないかな? 」って。


 真也も「わかった」と一言、真也は特に何も言わず向こうにも顔を出すことになった。




 それから数日後の放課後、いつものようにアキが僕の元へとやってくる。


「なっつきくーーん、おつかれーー」


 そしてアキからの言葉。このやり取りがそんな長い期間行われたわけではないけれど僕にはもう無くてはならないことのように感じ始めている気がする。


「アキもお疲れ。今日も部活頑張ってね」


「うん、頑張るよ。あっそれでね、ひとつ話しておかないといけないことあって」


 そんなやり取りの中、今日は珍しくアキから改まった話があるようだった。


「うん、なあに? 」


 僕はアキに気を使わせないよう気軽に問い返すと


「私の友達がね。もしかすると夏樹くんに押しかけてくるかも」


 とちょっと困ったように僕に伝えてきた。うん? 友達が何の用だろう? そう考えて僕は不思議そうな顔をしていると


「別に夏樹くんにはなにもないのよ。ただ、その友達にはいろいろと相談したりしていたから。でも……ほら、友達は夏樹くんと私、ふたりで過ごしていると思っていたんだよね。だから関わらないでくれていたんだけど……真也くんもこっちに合流したでしょ? それにふたりも来るかもしれないって話しちゃったんだよね」


 とアキは友達に勝手に喋っていたことが気不味いのかちょっと戸惑いながら僕に伝えてきた。まあ、僕としてはアキが信用している友達に話をしていたことなんて気にならなかった。

 それよりもこっちのほうが気になっていたんだ。アキが友達とどうなっているのかって。僕のために会いに来てくれていれば友達との関係が悪くなっていないかって。アキに聞いてもいつも「大丈夫! 」としか言わないからわからなかったから。


「はははっもしかして友だちに話したことを気にしてる? 全然気にしてないから。それよりも友達との話を聞けてよかったって思ってる。上手く行っているんだなって」


 と僕が返してやるとアキは安堵の表情を見せながら続けてこう告げる。


「勝手に話してごめんね。いろいろと相談したりしてたから。それでね、その友達がふたりきりじゃないなら私も居ていいよね? って言い出しちゃって……」


 ああ、そういうことかと納得する。確かに友達なら一緒に過ごしたいと思っても不思議じゃないし、心配もあるだろうしなあ。それにアキの知り合いって真也は部活で知っているけれど、そこまで良好な関係でもない。今井さんと只野さんとはもっとだ。それなら友達に来てもらうのもありだと僕は思う。


「隣のクラスの人がアキひとりだけだから一緒に来るのもありじゃない? その子が問題ないのならね。別に押しかけられてもいいよ。友達なら一緒に過ごしたいと思って当たり前だよ」


 だから僕は思う通りに言葉を返すのだが、なぜかアキはあまり良い顔をしない。それを見て僕は


「うん? どうしたの? 友達となにかあった? 」


 そう尋ねてみると、アキは言いたくなさそうな感じながらも


「ううん。友達は好きだよ。ただね、夏樹くんにあんまり会わせたくないかなあって。あの子モテるんだもん」


 とアキは可愛いことを言い出した。でもさ。僕ってそんなに誰彼好きになるわけじゃないからね? とちょっと悲しくなる。


「あのさ。僕、そんなにころっと誰彼好きにならないから。なんだか信用ないなあ」


 だから僕はアキにそう告げると


「うん。わかっているんだけどね。はぁ……」


 とアキは申し訳無さそうに僕にそう伝えてきた。だから


「まあそこはアキに任せるよ。友達の気持ちもあるだろうし。まあ、ひとりで押しかけてきても今話したとおりに伝えるだけかな? 僕は問題ないから。ただ、そうなれば真也にも話さないとかな? ふたりはまだ合流する話もしていないし後から……」


 とアキに伝えながらも僕は今後のことを考えていた。それを見たアキは


「ふふふ。ありがとう。私のこと気遣ってくれて」


 と嬉しそうに僕に告げるのだった。 




 アキは話が終わると「早く行かないと」と慌てて教室から出ていった。ぼくとちょっと話し込んでいたせいか時間がなさそうだ。


「話は終わったみたいだな。んじゃ俺も行くよ。また明日な」


 と真也が声をかけてきた。って真也は急がなくていいのか? と思いながら


「ああ、真也も部活頑張ってな。真也も時間ないんだろ? 早く行けって」


 と僕は真也にそう告げるのだが、なぜか真也は呆れた顔をしながら


「夏樹。千葉さんの友達知らないのか? 」


 と尋ねてきた。というか真也……お前聞いてたのか? と苦笑いをしながら僕は


「うん。知らない。というか隣のクラスの人多分ほとんど知らないと思う」


 と返す。そんな僕を真也はじーっと見て


「ほんと春以外見ていなかったんだな。呆れるよ。まあ千葉さんの友達見たら顔くらいは知っていると思うよ。会ってのお楽しみかな」


 そう言って部活動へと向かったのだった。

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