第32話 理解
しばらくしゃがみこんでいた只野さんだが、なんとか正気を取り戻すと
「はぁ……もういいわ。いまさら遅いし。千葉さん覚えといてね」
アキをじろっと見つめた後そう言って、クラスのみんなの視線を無視するかのように知らん顔で自分の席へと戻っていった。あんなに恥ずかしがっていたのに。おかしくなるとともに只野さん強いななんて思う僕。そんな僕に
「ふふふっちょっとやりすぎた? 」
とアキはそんな只野さんを見ていたずらっぽい顔をしてそんな事を言ってくる。だから僕は
「ほんとに何してくれるんだか……まあそのあたりは昼休みにでも話そうか」
なぜこんな事をしたのかやっぱり聞いておきたい気持ちがあるからかそう伝えると
「はーーい。じゃ私は戻るわね。夏樹くんまた後で」
アキは僕の声を聞くと逃げるかのようにそう言って慌てて教室へと戻っていったのだった。
その後は只野さんと特に話すことはなかった。ただ、アキのおかげで今後、只野さんとの学校で軽い会話は気兼ねすることがなくなったのかなと思う。
まあ今井さんの事以外についてはだけど。朝のやり取りは今井さんも見ていたはずで、きっと良い気分はしていないと思う。「だいっきらい」という相手と今、喧嘩をしていても大事な友達が仲良くしている場面を見せられたのだから。
昼休みになると、食事を取ろうとクラスのみんながそれぞれ行動を起こしだす。僕はアキが来るまで教室で待つのみ。そんなアキを待つ間、向こうのグループが少し気になってちらちらと確認してみる。みんなどうするのかと。真也はまだ話が片付いていないと言っていたからかこちらには来なかった。そして今井さんと只野さんに声をかけて集まっていたようだ。真也も偉いな。抜けると言いながらもこういう時は率先して声をかけて。
集まった3人はあまり良い雰囲気ではないのが僕でも見ていて分かる感じ。喧嘩しているんだもんな、あのふたり。真也はわかっているのかわかっていないのかは直接聞いてはいない。けれども傍から見れば雰囲気の良くないふたりに気付くだろう。真也が入って仲直りのきっかけができればいいなと僕は3人を見ながらそんなことを考えていた。
「夏樹くんおまたせ」
僕は考え事をしていて全く気づかなかったためアキの声に驚いてしまう。
「あっごめん。なにか考え事してた? 」
とアキは僕のそんな様子を見て謝ってきた。そんなアキに僕はまた慌てて
「いやいや、こっちがごめん。ちょっと向こうが気になってて。それでアキのこと気付かなかったよ」
と僕の方からも謝った。それを聞いたアキは
「ならよかった」
と呟いた後、近くの空いた机をくっつけて向き合って座る。そして弁当を取り出して
「ささっ食べようか? 」
と僕を見つめてそう声をかけてきたので
「うん。そうだね」
僕はそう言うと弁当を取り出しふたり食事を開始したのだった。
「ねえ、アキ」
「なに? 夏樹くん」
「なんで朝の場であんなことしたの? 」
食事をしながらではあるが、僕は朝の件で気になっていたことを素直に尋ねる。それに対してアキは
「うーーん。まあひとつはあのやり取りの中で言ったことだよね。折角只野さんとの関係が戻ったのに私が居て声がかけられないなんてことが無いように」
そう言いながら人差し指を一本たてそう僕に告げた。そして中指を続けてたて
「それときっかけになればいいかなあって。今井さんは私達と只野さんが会話していれば気が気じゃないかなあと思って。それが今井さんと只野さんが仲直りするきっかけになればなあなんて思ってね。ただ、失敗しちゃうと嫌われるだけになるかもしれない。一か八かってのはあるかもしれないかなあ。でも呼んだのは私だし私に嫌悪を持つならそれでもいいかなって」
そう僕に説明してくれた。そんな考えを伝えてくれたアキだけれど、言い終わると困ったような顔をして
「ただ、ひとつだけ心配なのは嫌悪が私じゃなく夏樹くんに向くかもしれないって不安はあるんだよね。まあもう勝手に動いちゃった私なんだけど……ちゃんと夏樹くんに話をしてからのほうが良かったかな? 」
と僕の心配を話してくれた。それを聞いて確かにそうだとは思うけれどそれは別に構わない。もう嫌われているわけで今更だしね。
それよりもあくまで僕たちの諍いであってアキが嫌われる必要なんて無いわけで。そちらのほうが僕にとっては気がかりなわけで。
いろいろと問題があるような気はするけれど、アキが僕のことを考えて心配で行動したことだから今更何も言うつもりはなかった。けれどひとつだけは伝えておきたいと思う。
「アキの気持ちうれしいよ。ありがとう。別に今井さんから嫌悪をもらおうとそれはいいよ。アキが精一杯考えてくれたみたいだから。それにアキが猪突猛進な人だってわかってるしね」
と言うとアキは少し頬を膨らませて
「あっそんな事言う? 一応考えたんだよ」
と僕に突っかかってきたアキに
「うん。ありがとう。でもね、アキも言ってくれたよね。ちゃんと話そうって。だからさ、こういう事もちゃんと話してから事を進めようよ。アキのすることに別に意見とかは無いけどさ。ちゃんとアキの考えもわかった上で進みたいからね」
と僕が言うとアキはハッとした顔になり
「そうだよね。ひとりで進めちゃ駄目だったよね。夏樹くんごめん」
と謝ってきた。そんなアキに僕は笑顔を浮かべて
「ううん。アキの気持ちはわかったから。気にしないでいいからね。ありがとう」
そう告げるのだった。
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