第31話 アキと只野さん
僕は教室に着くとみんなと挨拶を交わし自分の席へと鞄を置き腰を下ろす。昨日は只野さんやアキと会話をしたことで落ち着いて学校へと来ることが出来ていた。まあ只野さんと会話できたからと言ってすぐに声を掛け合ったりは出来るものじゃないけれどね。
そういえばと只野さんと今井さんを見てみるとまだ仲直りはしていないようだった。まあ落ち着くまで待ってからと只野さんも言ってたし昨日の今日でそんな簡単に仲直りできるわけないよなあと考えていると、いつもより早くアキが教室へとなだれ込んできた。
「ぐっもーにんっ(Good morning! )」
といつもの挨拶で僕の元へとやってくる。
「アキ、おはよう。でも今日は早くない? 」
僕はいつもより早いため気になって聞いてみると
「ふふふっ。へへへっ。ちょっとね」
とちょっとおかしな笑いを始めたアキ。そして
「只野さーーん」
といきなり只野さんに呼びかける。その声を聞いた只野さんは呆気にとられた表情をしながら
「え? なに? 」
と声を上げる。アキと只野さんは交流はろくにしていない関係だろう。それなのにいきなり呼びかけられれば驚くのも無理はないと思う。そんな只野さんに
「只野さん、ちょっと来て? 」
アキはこちらに来るように呼びかける。困った顔をしながらも只野さんは仕方がないというように
「わかったわ」
と言い、僕らの元へとやって来た。
「で……千葉さん、何の用? 」
と只野さんは尋ねてきた。うーん、この只野さんは素直じゃない只野さんかな? と僕は思っていると、アキはニコニコした顔をして
「今日、夏樹くんに挨拶した? 」
と只野さんに尋ねだす。すると、只野さんは不思議そうな顔をしながらも
「いえ、してないわよ。というよりいきなりなんでそんなことを? 」
とアキへと尋ねる。するとアキは
「本当にしなくていいの? それでいいの? これっきりは嫌なんでしょ? 」
と昨日僕が話したことまで話してしまう。それを聞いた只野さんは僕の方を向き「なんで言うのよ」と言いたそうな顔で僕を睨みつけてきた。というかアキ……なんで言うの? と僕も困惑していると
「ごめんね。私と夏樹くん、……されたらちゃんと相手に報告することになってるんだ。だから話は聞いちゃってるの。でも別にからかってるとか見せびらかしたいとかそういうことじゃないの。私はいつも夏樹くんの側にいるつもり。ねえ? 私が居たら夏樹くんに話しかけないの? それだとほとんど話す機会なくなるよ? それでもいいの? 」
アキは謝りながらも真剣な顔で只野さんに尋ねていた。それを聞いた只野さんは少し考え込むも
「ねえ? なぜこんな事するの? 私を近づけないほうが千葉さんには良いんじゃないの? 」
そうアキに尋ね返す。するとアキはいつもの笑顔で
「だって私の一番は夏樹くんだから。やっとすれ違いもなくなって仲直りできたのに、私のせいで只野さんとまた険悪になったら駄目でしょ? 夏樹くんを困らせるだけ。私としては只野さんとも仲良くしたいと思ってるよ。それにね、争おうとは考えていないけどライバルだよね、私達。お互い思うものは一緒なんだから」
と只野さんにそう伝えたのだった。
ちなみに僕は蚊帳の外。とにかくふたりのやり取りを聞き逃さないように聞いていた。
それを聞いた只野さんはまた呆れたような顔をして
「はぁ……近藤くんが大事にするわけだわ。本当に近藤くんのことを考えていて……。勝てそうにないなあ」
と呟く。そんな只野さんにアキはちょっと困った顔をして
「あのね。ひとつだけ只野さんが私より勝ってることあるんだよ? 」
そんな事を告げる。僕も何のことだろうと思いながら聞いていると
「え? そんな事あるはずないじゃない? 嫌なこと言って困らせてばっかりだったし」
と只野さんが言い返していた。それに対してアキは
「只野さんはきちんと伝えたでしょ? 私はまだしてないよ? だからこれだけは私負けてるの。でも渡すつもりはないけどね」
そう言ってまた笑顔で只野さんに告げるのだった。
「で……素直にならないの? 夏樹くんに挨拶しないの? 」
アキはまた只野さんにそう言って詰め寄った。すると
「はぁ……千葉さん、私の負け。うん、挨拶するわ」
と只野さんは負けましたという感じでアキに告げた後
「近藤くん、おはよう」
そう声をかけてくれた。それは昨日の素直な只野さんのようだった。だから僕も素直に
「只野さん、おはよう」
と笑ってそう挨拶した。そんな中、急にアキが
「最後にね。只野さんごめん。みんなが見ていること考えてなかった」
困った顔でそう只野さんに伝えていた。僕も周りを見渡すと僕たちのやり取りをクラスのみんなは見ていたようだ。そう、今井さんも。真也は部活から戻ってきてないようでまだ教室には居なかったが。
それに気付いた只野さんは流石に話を聞かれたのが恥ずかしかったのか顔を真赤にして
「もう何よ。見ないで、聞かないで。恥ずかしい……」
そう言って顔を隠してしゃがみこんでしまうのだった。
いつもと違う只野さんでかわいらしく。
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