第30話 勘の鋭さ
しばらくすると僕の背から只野さんの背がすっと離れていく。そしてすべてを話しきったのか只野さんはすっと立ち上がり
「近藤くん、ありがとう。あっあとひとつだけ……私達離れちゃうわけだけど話しかけてもいいよね? これっきりじゃなくてもいいよね? 」
と最後は僕を見つめてそう問いかけてきた。だから僕はすぐに立ち上がりちゃんと只野さんの目を見てから
「うん。これっきりじゃないよ」
と僕を見つめながら素直に尋ねてきた只野さんに答えたのだった。
そして僕達はそのまま屋上で別れた。僕は鞄を持ってきていたので教室に戻る必要がなかったから。僕はそのまま階段を降り靴箱で靴に履き替える。
靴箱を出ると結構時間が経っていたようで少し空が暗くなっていた。そんな中いつものように運動部の声がこだまする。そしてテニスコートではテニス部が練習をしていた。僕は無意識にふたりを探す。真也はぱっと見、男子テニス部でも目立っていてすぐに分かった。格好良く決まっているなあ。そしてアキはと思い女子テニス部を探そうとしていたところに
「夏樹くーーん」
と前回のようにテニスコートから僕を呼ぶアキがいた。いや……なんでそんなに僕を見つけるの早いの? そんな事を考える僕をよそにアキはこれまた前回のようにテニスコートから飛び出して僕の元までやって来る。
「アキ? 部活の途中に抜けていいの? 」
そう、前回もこんな事してたし、みんなの輪を乱すんじゃないか? と心配したのだが
「大丈夫! こうなることがあるってみんなには伝えているから」
とアキはなんてこと無いように言ってきた。いや準備万端? というかわざわざみんなに言うことか?
「でも帰り遅いね? ……ねぇ。ちょっと待ってて? 」
僕の帰りが遅かったことからなにか勘付いたようだ。そんなアキのあまりの勘の良さに驚愕しながらも
「ああ、すぐ終わるならいいよ」
と僕はアキへと返事をする。するとアキはテニス部の元へと戻ったかと思うとすぐに僕の元へと駆けて来た後、僕の手を掴み
「いくよ」
と校舎裏の方へと引っ張っていくのだった。
校舎裏に着くと僕たちは校舎により掛かる形で並んで座った。すると
「夏樹くん。なにかあった? 」
とアキは即座に尋ねてきた。この勘の鋭さは怖いとかではないがやっぱり吃驚してしまう。ほんとよく分かるなあと。まあ、アキには誰かに告白された場合はすべて話すって約束をしているわけで話すことには問題はなかった。でもね、急すぎて心の準備がまだできていないんだって。
だから僕は深呼吸をひとつしてから、心を落ち着けた後
「ほんとよく分かるよね。別に隠すことなんて無いし約束もしていたしね。ちゃんと話すよ」
そう伝えてから僕は只野さんと話をしたことを伝えていく。
僕を見ると素直になれず思ったことを上手く伝えられなかったこと
僕に戻ってきてほしかったということ
好きだと告白されたこと
けれど告白の返事はいらないと言われたこと
そして現在今井さんと只野さんが喧嘩をしていることを。
それを聞いたアキは別に怒る様子もなく、いや逆に嬉しそうに
「そっか。そういうことだったんだね。告白されちゃったのは悔しいけど……でも夏樹くんの悩みのひとつは解決したってことだよね。ひとりの人として見てくれていたんだから。おまけじゃなかったんだよ」
優しい笑顔を僕に向けて言ってくれた。そんな自分のことのように嬉しそうにしているアキに
「アキ、ありがとう」
と僕は心からお礼を告げるのだった。
それからアキは少し真剣な表情をして
「ただ今井さんと只野さんが喧嘩しているのは残念だね。けれど様子を見て仲直りするってことだからしばらく様子を見ようね」
と僕だけでなく今井さんと只野さんの事を気にかける言葉を僕に伝えてくれた。そんな周りにも気を使ってくれるアキに嬉しさを感じるけれど、
「うん、そうだね。今は僕は何も出来ないから」
今井さんに嫌われている僕では何も出来ないからか僕の返事は少し落ち込んだような言葉になってしまう。そんな僕に
「大丈夫よ」
とアキは力強くそう言葉をくれた。その言葉はとても不思議で。大丈夫なんてそんな事分からないのになぜか信じたくなる言葉。アキが言うだけで心強いと言えば良いのか。うん、僕は素直にその言葉を信じてみようと思う。だから
「うん。そうだね」
再度そうアキに伝え笑顔を見せるのだった。
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