第29話 気になっていたこと



 只野さんは全てを言い終わったのか落ち着いてきたように思える。背に感じていたドキドキも収まってきているようだった。だから僕は気になっていたことを只野さんに聞くことにする。


「只野さん、もしかして今井さんとなにかあった? 」


 そう、今日ふたりでいるところを見ていない僕は気になっていたのだ。そんな僕の問いに


「はははっ。やっぱり分かるよね。普段からいつも一緒に居るのに今日は全くだったから。春とは喧嘩しちゃって。えっとね。休日に真也くんから私達から離れるって話があってね。その話に混乱した春は「ダメ! 離れちゃダメ! 」の一点張りでその後話しにならなくてね。とりあえず途中で解散したんだけど。その帰り道で近藤くんのことを春が悪く言うから私も我慢できなくて言い合いになって春を放って帰っちゃった」


 只野さんは気まずそうに話してくれた。そっか。やっぱり僕のことでふたりの間も険悪になったんだって。ほんと申し訳ないと思う。そんな事があったなら今井さんも僕に対して良いイメージなんて持てるわけ無いよなあと考えていると


「そういえば、近藤くんも春からなにか言われたの? 気になることあるって言ってたよね? 」


 と只野さんも僕が気になっているって言っていたことを思い出したのかそう尋ねてきた。僕は隠しても仕方ないと思い素直に


「今井さんにね。休日にばったりあってね。その時に「だいっきらい」って言われちゃった。でもね、その後の言葉「真也も今井さんも只野さんも壊れていってる」って言われたんだよね。今井さんに対しては分かるんだ。けれど真也と只野さんについてはさっぱりだった。ほんと僕って駄目だよね。みんなのこと全然理解できてないんだから。だから只野さんと話してみようと思ったんだよ」


 只野さんにその時言われたことで考えていたことを告げるのだった。




 それを聞いた只野さんは少し困ったような口調で


「そうなのね。会って話をしちゃったんだ。私が壊れていってるかあ……多分ね、私が春にそう思われたのは近藤くんを屋上に呼び出して話した後、春の前で泣いちゃって。そこで思わず春に「春が好きだから思い伝えられなかったのにいつの間にか千葉さんに近藤くん取られちゃった」って泣きながら言っちゃったんだよね。お恥ずかしい……だからかなあ。近藤くんに私の好きな気持ちを壊されたって思ったのかも。よくわからないけれど春はそう思ったかもしれないかな。でも壊れてないよ、私。ちゃんと気持ち伝えられたし、好きなままだし。ただね。真也くんはわからないなあ。なにが壊れていっているか、春が何を思っていったのか……」


 そう只野さんは言った後、ひとつため息をついてから


「近藤くん、ごめんね。今、春はちょっと参っているみたいだから。嫌わないであげて。私も春がもう少し落ち着いたら仲直りするつもり。喧嘩してもやっぱり親友だからほっとけない。そして春ともちゃんと話をして近藤くんに酷いこと言ったこと謝るように伝えるからね? 」


 と僕に伝えてきた。でもそれについて別に無理に謝ることはないって僕は思っていた。そしてそれに対して怒るという事もなかった。だって仕方ないじゃない。好きな気持ちと同じように嫌いな気持ちを変えるなんてそう簡単にできるものじゃないんだから。


「ううん。僕ね、別に怒ってないんだよ。ショックはあったけどね。好きだった人に「だいっきらい」って思われていたと思うとね。でも無理に気持ちを変えるなんてする必要ないから。嫌いならそれはそれで仕方ない。僕もそれに気づけなかった。しつこく好きだからって近寄ってしまった。僕も悪いんだよな」


 僕は空を見上げながらそう只野さんに伝えると


「私は春に一生懸命な近藤くんも良かったんだけどなあ。私に向いていないのは残念だったけどね」


 只野さんは照れたような感じで僕にそう言ってくれたのだった。



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