第27話 素直じゃないの



 屋上で背中合わせで座っている僕と只野さん。緊張しているのか只野さんのドキドキが伝わってくる。僕はそれを感じるとそこまでドキドキするほどの話なのかと不安を感じてしまっていた。


 しばらくしてそんな僕に只野さんは口を開く。


「こんな態勢でごめんなさい。どうしても……顔を見て話すと駄目みたいだから」


 そういう只野さんに僕は


「何が駄目なの? 」


 と疑問に思い問い返す。すると少しぎこちなさそうに


「えっと……ね。私って素直じゃないの。どうしても近藤くんを前にしちゃうと言いたい事と違うこと言っちゃって。ふぅ、近藤くんが私達から離れて真也くんもそれについていくって言って。真也くんまで行っちゃうとこのままじゃ近藤くんと縁が切れちゃうって思ったから。ちょっと情けないけどこんな形でもちゃんと気持ち伝えたいって」


 只野さんは僕にそう告げる。そして


「近藤くんが私達のグループから離れて……最初、放課後に声かけた時ね。本当はあんな言い方するつもりなんてなかったんだ。言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、私は真也くん関係なしに近藤くんに戻ってきてほしかった。そう考えて話に行ったんだけど素直に言えなくて怒らせるだけだった……だって真也くんに帰ってきて欲しいみたいな言い方だったもんね」


 只野さんは少ししょんぼりした声で僕にそう伝えてきた。今聞いている話は僕の知らないわからない事ばかりだ。只野さんが素直じゃないなんて考えたこともなかった。

 うん、僕は別に只野さんのことが嫌いとか言うことじゃないんだから。アキと話した「人と分かり合うには……話すこと、聞くこと」分かり合えるなら分かり合いたいと思うんだ。仲間だったんだから。だから、まず僕は只野さんの話を黙って聞くことにした。


「そして、翌日、屋上に無理に連れてきて……私焦ったんだよね。なんで近藤くんと千葉さんが一緒に居るの? って。おかしな話だよね。私がした言い訳も言い訳にならない事言ってたよね。真也くんと戻ってくると思っていたって。ほんと情けないなあ。本当なら私達が近藤くんを助けないといけなかったのに。酷いことばかり言って。そんな中、千葉さんが現れて……近藤くんの側にいて。私なんであんなこと言っちゃったんだろうって後でいっぱい泣いちゃった。ああ……千葉さんが羨ましいなあ」


 只野さんは僕のことを助けたいって思ってくれてたんだってことはわかった。ただ上手く僕に伝えられなかっただけだって。こういうことももっと分かり合っていればすれ違いなんてなかったのかもしれないなって僕は思った。やっぱり一緒に居るだけじゃわからないことなんていっぱいあるんだと。

 ただ、只野さんは相当アキのことを気にしているみたいだった。そして僕のことも。それが僕にはいまいちわからないところだった。おまけにアキが羨ましい? 話を聞きながらそんな事を考えていると只野さんは


「本当にごめんなさい。私は近藤くんに戻ってきてほしかった。だから近藤くんに話をしに行ったの。真也くんではなく。真也くんのためじゃなかったの。私は近藤くんに戻って欲しかったの」


 と素直に謝ってくれた。そして真也のことに関係なく只野さんは僕に戻って欲しかったと言ってくれた。その事を聞いて僕はとてもうれしく感じた。たとえ只野さんが素直になれずに僕にあのような言葉を告げた後だとしても。だから僕は


「ううん。別に怒ってないからもういいよ。今日、只野さんから話を聞いてやっぱり僕たちって近くにはいたけど分かりあえていなかったんだなあって思った。それですれ違っちゃったんだなあって。僕にも悪いところがあったんだよ。だって僕、今井さんのことばっかりだったから。そんな僕じゃ只野さんのことを理解出来るかと言っても出来ないよね? それにアキに言われてわかったんだ。伝えないとわからないこといっぱいあるって。只野さんの話を聞いてつくづく実感したよ。だって只野さんが素直じゃないって知らなかったんだから」


 そう只野さんに告げる。すると只野さんは少し残念そうに


「確かに春のことばかり見てたもんね。好きだから仕方ないって思ってたけど。でも……今見てるのはやっぱり千葉さんなんだなあ」


 そう呟くのだった。




 


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