第26話 いつもと違う



 ホームルームが終わると、教室前の廊下で待っていたアキが教室へと入ってくる。


「なっつきくーーん、おつかれーー」


 いつもの元気な声で。そんなアキに


「アキもおつかれ。今日も部活だろ? 頑張ってきてよ」


 今から部活があるはずなので僕は挨拶程度に言葉を告げる。


「うん。頑張ってくるよ。あっそれと明日からは休み時間も夏樹くんに会いに来るからね。今日はしんどいと思って遠慮しただけだから」


 そんな僕にアキはそう言っていつものように微笑んできた。その表情を見たせいか僕は思わず


「うん。わかってるって。ちゃんと待ってるから」


 待っているなんて言葉を告げてしまった。言ったあとで恥ずかしいなと思ってしまった僕。けれどアキはとても嬉しそうな顔をして


「ふふふっ待ってるだなんて。嬉しい。じゃ部活に行ってくるね」


 と僕に告げて部活へと向かおうとしたところ


「夏樹、また明日な。千葉さん部活まで一緒に行こうか? 」


 と真也も僕のところまで来て挨拶をしてきた。そしてアキに一緒に行こうと声をかけるが


「ごめーーん。遠慮しとく。じゃ夏樹くん、またね」


 そう言ってアキは気にも留めない感じで真也を放って先に部活へと行ってしまう。アキのそんな態度を見せられた真也は


「はぁ……なかなか仲良くはなれないもんだな」


 残念そうにアキの後ろ姿を見ながら呟く。そんな真也に僕は


「まあすぐには難しいのかもしれないけどアキもちゃんと真也も見るって言ってたから。焦らず行こうよ」


 アキもちゃんと真也を見ると言ってくれたとそう声をかけた。すると


「そっか。一応は千葉さんも考えてはくれているわけか。夏樹、ありがとう。じゃ俺も部活に行くよ」


 真也は僕の言葉を聞いて少しは安心した顔をして部活へと向かっていったのだった。




 ふたりを見送った後、さて僕も帰ろうかなと鞄を取ろうとしていたところに


「近藤くん、ちょっといい? 」


 と声をかけて来る人が居た。その声はここのところ呼び出しを受けたことがあるせいか姿を確認せずともすぐに分かった。


「なに? 只野さん」


 僕は屈んだまま鞄を取る態勢でそう只野さんに返事をした。


「え? ごめん。もしかして怒ってる? 」


 そんな僕の姿を見て只野さんは心配そうに尋ねてきた。ああ、鞄を取りながら姿も見ずに返事したから怒ってると思わせちゃったか。


「ごめんごめん。声でわかったんで鞄を取りながら返事しちゃった。態度悪かったね」


 僕は直ぐに只野さんを見てそう詫びを入れた。すると只野さんは安心したような顔をして


「ううん、いいの。それよりも申し訳ないんだけどまた話があって……時間空いてないかしら」


 僕にそう尋ねてきた。というよりも只野さんは前回とは大違いな態度だった。こんな態度で来られれば僕は断る気にもならない。それに今井さんが言った「只野さんも僕のせいで壊れた」ということが気になっているわけだし話さないという選択肢はなかった。


「うん、いいよ。僕も気になっていることがあるから話をしたいとは思っていたから」


 と僕が言うと、只野さんは驚いた顔をして


「私のことで気になっていること? もしかして春からなにか言われた? 」


 と僕に問い詰めてきた。だから僕は


「まあそれは話のときにしようよ。ここじゃなんだし。また屋上に行く? 」


 と僕が尋ねれば、只野さんはただこくんと頷いてきたのだった。




 屋上に着くと只野さんは僕に


「今日はいろいろと話したいことあるから座って話したいんだけどいい? 」


 と尋ねてきた。そんな只野さんを見てなんだか今日はいつもと違うなと再度思う。只野さんってちょっと気が強くて強引な面があったんだけど今日はその欠片も見えず、なにをするにもまずは僕に確認をしてきている。

 そんな普段の態度さえ見せず改まった態度の只野さん。そんな姿を見ていると真剣に何かを考え、話に来ているのかもしれないなと思った僕は


「うん、いいよ。どのあたりに座る? 」


 と只野さんに尋ねると、只野さんは真剣な顔をして


「お願いなんだけど……校庭の方に向かって座ってもらっていい? 」


 と僕に座り方までお願いをしてきた。意味がわからないが普通に頼まれたのであれば僕としても別に断ることなんてない。だから僕は


「わかったよ」


 と伝え、校庭側を向き体操座りで座り込んだ。すると


「私も座るね」


 と只野さんはそう言って僕の背に自分の背を合わせ反対側を向いて座ろうとした。だから僕は振り向いて言葉を告げようとすると


「ごめん。振り向かないで。校庭の方を見てて。こんな話し方でごめんなさい。後でちゃんと説明するから」


 と只野さんから振り向かないように言われてしまう。普通は向き合って話すものじゃないのかなあと思うけれど、只野さんも後で説明するからと懇願するような感じで僕に告げてきたわけで。僕は納得がいかないながらも只野さんの希望通りに


「わかった。校庭の方を見ていればいいんだよね」


 と只野さんに告げると


「ごめんね。今日はいろいろとお願いばかりして。でもこうしないと多分ちゃんと話せないと思うから」


 只野さんはそう言った後、今度こそ僕の背に自分の背をくっつけて僕とは反対側を向いたまま座り込むのだった。



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