第25話 いるんだから



 アキと話をした後には僕は落ち着きを取り戻していた。重たいものは影も形も感じなくなっていて。けれども僕たちは長い時間、話をしていたようで次の授業までの残り時間がないと慌てて昼食を取りそれぞれの教室へと戻っていく。


 アキは安心した笑顔と「よかった。元気になって」という言葉を僕に残して。




 僕は慌てて教室に戻り席につくと、次の授業まであまり時間がないにもかかわらず真也がやって来た。


「夏樹、話は終わったか? 」


 と真也は心配してくれていたのだと思う。僕にそう尋ねてきた。そんな真也に


「ああ、きちんと話をしてきたよ。おかげですっきりだ」


 と僕は素直に返答する。それを聞いた真也はちょっと複雑そうな顔をして


「そうか。はぁ……夏樹の相談役まで千葉さんに取られるのか? 俺? 」


 と僕に聞いてきた。ちょっとおかしくなった僕は


「なに言ってんの。真也との仲は前と一緒。なにも変わらないんだから。変なこと言わない」


 と笑いながら伝えると真也も少し笑いながら


「そうだな……変わらないよな」


 と小さな声で呟く。そしてなにか思い出したようで


「ああ……そういえば向こうのグループから離れる件だけど、たまたま休日に部活が早く終わってね。その時に話をしていたこと伝えてなかったよ。まだ話はついてないんだけどね」


 と真也は気まずそうに僕に伝えてきた。

 そうだね。しっかりと話をしてもらわないと駄目だから。もし嫌なことがあったとしても。真也は僕のようにならないでもらいたいからさ。


「わかった。話がつかないとこっち来ちゃ駄目だよ。でも今日は結構僕の方に来てはいるんだけど……なあ」


 僕が真也にちょっと気になってそう言うと


「心配してたらそりゃ会いに来るだろ? ちゃんと夏樹とはこれからも付き合っていくことは向こうに伝えても居るし。それにグループに残るか残らないかと友人への接触禁止は違うだろ? そんなところまで口出しされちゃたまらないよ」


 と真也はちょっと呆れたように僕にそう言った。まあ確かにそうだよね。人付き合いまで詮索されちゃたまらないよな。


「わかったわかった。問題ないならいいんだよ。まあきちんと話をしてね。大事なことだからさ」


「ああ、わかったって。ちゃんと約束は守る。……それとさ、一応聞くけど千葉さんと話した内容は俺が尋ねてもいいのか? 」


 真也はやっぱり僕が心配なのかアキとの内容を尋ねたそうにしているが、やっぱり話し合いも終わっていない今、真也に伝えるのは駄目だと思い


「ごめん。今は言えないや」


 と僕が言うと


「今はか。はぁ……夏樹がそう言うという事は俺にも関係あるってことだなあ。わかったよ。ありがとう。さてそろそろ席に戻るよ」


 と真也は言って自分の席へと戻っていった。はぁ……そりゃ僕が隠すとなったらそう感づくよなあ。以前なら問題事は真也へ一番に相談してたわけだし。そして隠した時は真也が関係していることばっかりだった。今までがそうだったわけだしわからないわけ無いか。まあ嘘はつけないわけだし仕方がないよなと僕は諦めて午後の授業へと思考を変える。アキのおかげで午前中にあった重たいものは今は全く感じず、ぼんやりとすることも無くなっていた。アキ様々だよなあ、ほんと。


 そうして僕に関しては何事もなく午後の授業を受けることができたのだった。

 



 けれどひとつだけ気になったことがあった。午前中は周りの事が全く目に入らなかったせいで気付いていなかったけれど、休み時間に真也達グループが集まる様子が全くなかった。そして今井さんと只野さんは大抵一緒に居るんだけれど今日の午後に限ってはふたりで過ごす様子もない。


 今井さんの言ったように僕が壊した? よくわからないけれどそんな事に気付いたのだった。




 けれどそれに気付いたからといって僕はもう落ち込まない。

 だってアキがいるんだから。

 

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